フェアトレード事業を応援してくださってきた皆さまへ
アクセスでは1997年より28年間にわたり、フィリピンの生産者とともにフェアトレード事業を続けてまいりましたが、2026年3月末をもって終了することとなりました。
長年続けてきた大切な事業を終了するというのは、私たちにとってまさに苦渋の決断でした。この決断に至った背景、私たちの想い、そして今後について、ご報告します。
もくじ
*本ページ記載の文章と、下記動画は同じ内容です。
事業終了の概要
- アクセスは2026年3月末をもって、フィリピンにおけるフェアトレード事業を終了します。
- フェアトレード事業の継承を検討してくれている企業があるため、実現に向けて協議を進めます。
- アクセス・日本では、2026年4月以降も当面、在庫商品の販売を継続します。
- 以上に伴い、アクセス・フィリピンとアクセス・日本のスタッフ体制を縮小します。
終了に至った背景
アクセス全体の経営状態の悪化
事業終了に至った最大の理由は、アクセス全体の経営状態の悪化です。コロナ禍以降の物価高騰と円安により、フィリピン現地での事業費や人件費がペソ建て・円建て双方で跳ね上がりました。その間、クラウドファンディングを実施したり、フェアトレード商品の値上げ・子どもサポーター費の値上げを行うことで収支の改善を試みましたが、増加するコストを全て賄うことは難しく、根本的な解決には至りませんでした。そんな中、2024年度には理事から一時的に運転資金を借入しなければならなくなり、2025年度にはその額が倍以上増加。このままいけば、2026年度にはキャッシュフローが回らなくなり経営破綻しかねないというところまできてしまいました。
その一方で、フェアトレード事業自体も近年ずっと赤字が続いていましたが、生産者の暮らしを支えていること、フェアトレード事業の理念と可能性を伝えることの社会的意義が大きいため、活動はできるだけ長く続けたいと考えてきました。しかし、事業関連の生産コストの増大や円安、人件費の増加などにより、直近6年間の日本とフィリピンの累計赤字額は900万円を超え、アクセス全体の経営体力が落ちてくる中、フェアトレード事業の赤字をカバーし続けることが難しくなってきました。
生産者のニーズに十分に応えられなかった面も
他方、フィリピンの生産現場でも、商品の売上が不十分で、生産者一人当たりの収入を伸ばせないという課題を抱えてきました。一人当たり収入は月平均で3,000ペソ前後(米75㎏相当)で、あくまで家計の中での副次的な収入源という位置づけに留まりました。
年々フィリピンの物価や最低賃金が上昇していく中で、生産者の多くがよりよい収入を得られる仕事を求め、島の外に引っ越していったり、新しい仕事を見つけて転職していったりしました。フェアトレード事業担当の現地スタッフからは「新メンバーを募集してもなかなか応募がない」という声が届くようになりました。
日本・フィリピンで売上を伸ばすことができず、生産者が期待する収入を提供できてこなかったということも、事業終了を決断する一要因としてありました。
決定プロセスに関して
今回の決定について、あまりに性急だと驚かれた方も多いかと思います。事業を終了するにしても、十分な時間をかけて関係者の皆さまと話し合いを進めながら決定に至るべきところ、私たちのアクセス全体の財務状況に対する認識が甘かったため、早急な決断をするほか選択肢は残されていませんでした。
また、ペレーズ町にあるフェアトレード生産作業所について、土地の所有者より「2025年12月末までに立ち退くように」との通達を受け取ったことが、事業終了タイミングを早める要因となりました。
フェアトレード事業をとりまく様々な課題は、2020年ごろから少しずつ表面化してきていましたが、アクセス全体の財務状態が悪化する中で、事業が抱える複雑な課題に正面から向き合うだけの時間やエネルギーを十分に確保できてこなかったのだと、今ふりかえって思います。「あの時、あの場面で、もっと色んな人に相談をもちかけ助けを求めていたら、結果は違っていたのかもしれない」と、悔やまれます。
私たちの経営判断が至らなかったことを反省するとともに、事業を応援してきてくださった皆さまに課題を共有し、一緒に解決策を考えていただく場を作ってこられなかったことについて、私たちの力不足を痛感し、心から申し訳なく思っています。
理事会としての想い
28年間の活動は、300人以上のボランティアスタッフやインターンの皆さんによって支えられてきました。お一人おひとりが、良い商品を生み出すため、販路を広げるため、生産者の暮らしを改善するため、関わってきてくださいました。
お取引先の皆さまにも、大きく支えていただいてきました。どれだけ魅力的な商品を作っても、それらを仕入れて販売していただく皆さまがいなかったら、私たちの事業は継続できませんでした。
それぞれの立ち位置でご協力いただいた皆さまに、言葉にできないほど深い感謝の気持ちでいっぱいです。本当にこれまで、ありがとうございました。
その一方で、フェアトレード事業終了によって最も大きな影響を受けるフィリピンの生産者さんや日本・フィリピンの担当スタッフに対しては、このような結果となってしまったことを心から申し訳なく思っています。理事会として、全力で経営に取り組んできたつもりではありましたが、経営力や判断力が現実の課題に追いつかなかったことを痛感しています。
この苦い経験からできるだけ多くのことを学び、未来につなげていけるよう、全力を尽くしていかなければならないと考えています。
フェアトレード事業の価値と意義
ここで、28年間続いてきたアクセスのフェアトレード事業がどんな価値を生み出してきたのか、その意義を少しだけ振り返っておきたいと思います。
- 1997年より働きたくとも仕事のない女性や若者のべ約140人に、仕事の機会を提供
- 生産者は、商品生産から得た収入で生活を改善するとともに、商品生産スキルや自信、家庭内での発言力、組織運営スキルなども獲得
- ボランティアやインターンとして事業に参画した人々の数はのべ300人以上
- スタディツアー中にフェアトレード生産者として交流し、事業の意義を肌で感じた人々の数は約1,000人
- 貧しい人々を搾取することで成り立つ経済活動に代わるものとして、フェアトレードを実践し、その価値や意義を発信
私たちのフェアトレード事業は、経営的には赤字続きで、決して成功とは言えないまま終了の時を迎えることになりました。しかしそれでも、これまでの活動にはやはり意義や価値があったと思います。
生産者の皆さんは確実に追加収入を得てきましたし、「借金をしなくてよくなった」 「子どものミルクが買えるようになった」 「子どもを大学に通わせられた」といった喜びの声を何度も聞いてきました。ボランティアやインターンとして関わった日本の若者たちにとっては、挑戦や成長の場、問題解決力を伸ばす場であり続けてきましたし、本音で語り合える人たちとの出会いの場でもあったと思います。小規模ではありましたが、「フェアトレードの意義や大切さを、実践を通して伝える」という意味で、私たちの事業には、間違いなく重要な意味がありました。
今後について
事業終了に向けて、2025年度は次の4点に取り組みます。
1.事業継承について
現在、長年の取引先より「事業継承を検討したい」旨のご連絡があり、協議を続けています。もし実現できればフィリピン側の担当スタッフや生産者に新たな選択肢が開けるため、最優先事項として取り組んで参ります。
2.生産者や担当スタッフへの対応
事業継承が実現しなかった場合、生産者10名とフェアトレード担当現地スタッフ1名は、職を失うことになります。退職金やそれに準ずる補償として、フィリピンの労働法やアクセスの内規に基づきつつ、今のアクセスにできる最大限のことを行います。
3.在庫販売の継続
フィリピン・日本の双方に残っている在庫商品については、できる限り販売したいと考えています。そのため、2026年度以降もオンラインショップでの販売を継続するとともに、ボランティアの皆さんの力をお借りしてフリーマーケットや手作り市などのイベントに出店していく予定です。
4.事業の意義をふりかえり、「核」を未来に継承する
ファアトレード事業に深く関わって来ていただいた皆さんの中には、事業の終了を知り、ショックや戸惑いを感じ、気持ちの持っていき場がないと感じておられる方もいらっしゃると思います。そうした人たちが、ともに想いを分かち合い、事業の意義や価値を語り合い、それらを記録に残す場を作りたいと考えています。
そうしたプロセスの中で「失敗からの教訓」や「未来に引き継いでいくべきフェアトレード事業の核」も皆さんとともに確認したいと思います。詳細はまだ全く決まっていませんが、「そうした場に参加したい」と思われる方は、ぜひ事務局までご連絡ください。
最後に
アクセスはフェアトレード事業を通し、働きたくとも仕事がない女性や若者の暮らしを支えてきました。それは、「誰かを犠牲にして成り立つ経済ではなく、誰もが幸せになるための経済を実践しよう」とする試みでもありました。
事業終了にあたり、その具体的な実践は一旦幕を閉じることになります。ですが、「誰もが幸せになるための経済をどう実現するか?」という問いはこれからも投げかけ続けていくつもりです。「今の世界はなんだかおかしい」と感じる人たちが集い、「どう変えていけばいいかをみんなで話し合える」、そんなアクセスであり続けたいと思っています。
課題山積で、未熟な点だらけのアクセスですが、これからも皆さんと対話を重ね、試行錯誤しながらよりよい世界をつくるために行動し続けていきます。今回の決定についても、皆さまの想いや考えなどをぜひ、お聞かせください。
これまでフェアトレード事業を応援していただき、本当にありがとうございました。
認定NPO法人アクセス
理事長 野田さよ
本件へのご意見や想いをお聞かせいただける場合は、下記のフォームまたは電話番号までご連絡ください。「ふりかえりの場に参加したい」という方からのご連絡も、お待ちしています。