生産地の状況

マニラから南東に300㎞、ケソン州アラバット島ペレーズ。ここはフィリピンの典型的な農村地で、青い海に囲まれ、島にはヤシの木が茂り、自然豊かできれいな場所です。この人口約12,000人の地域は、わずか10人の地主に利用可能な大半の土地を所有され、残りの多くの人々は土地を持っていません。

ペレーズの土地はココナツプランテーションが80%を占め、主食の米や野菜を作る土地はわずかです。また住民は長年加工用・輸出用のココナツ生産に従事してきたため、ココナツ以外の作物を作る技術や伝統も衰退しています。そのためペレーズでは自給自足の生活が難しく、現金がないと主食の米も手に入りません。人々の大半はココナツの季節労働と漁師を掛け持ちしていますが、それでも収入は少なくその生活は非常に貧しいものです。

村から町の中心部に出れば小学校はありますが、経済的な理由などで義務教育の小学校を卒業できない子どもがいます。また、出席状況や成績で留年になることもあり、15、16歳で小学校をやっと卒業するという人もいます。

フィリピンの貧困

貧富の差が大きいフィリピン

フィリピンは貧富の差が大きい国です。フィリピンの首都マニラには高層ビルが立ち並び、世界でも有数の富豪や大財閥がいます。一方で、マニラ首都圏で400か所以上とも言われるスラムが形成され、人々はその日暮らしをしています。

1日1.15ドル以下で暮らす貧困層が21.6%(2017年アジア開発銀行)と言われています。また国民の5人に1人は小学校が卒業できません(2015年世界銀行統計)。

都市での現実

下で説明するように、フィリピンの貧困の大きな要因は農村における大土地所有制とプランテーション農業にあります。農村で文字通り食べていけない人々は職と収入を求めて都市に流入していきます。

しかし都市で良い仕事を得られるのは中産階級出身の高学歴の人だけで、農村から出てきた人は思い描いていた仕事を得ることは難しく、多くの人はスラムで暮らすことになります。実際マニラに点在するゴミ捨て場(有名なスモーキーマウンテンもその一つです)周辺で暮らす多くの人は地方出身者です。

フィリピンの農村の事情

より多く安い商品を作るために

フィリピンは約330年間スペインの、40年間はアメリカの植民地支配のもとに置かれ、3年半は日本の軍事支配を受けました。植民地時代を通して土地の搾取・集約化が進み、農村部では一部の大土地所有者と大量の土地を持たない農民が生まれました。

大土地所有制のもと、プランテーション農業が発展しました。プランテーションとは、主に海外市場のための輸出用商品作物の大規模単一栽培のことで、現在でもココナツやバナナ、パイナップル、サトウキビを栽培するために広大な農地が使用されています。

不平等なしくみ

輸出作物(一次産品)の国際価格は力の強い先進国の商社によって通常非常に低く抑えられているうえ、農民が作物を国内の仲買人に売って現金化する際にも、農民に不利な買取システムが形成されています。また地主のもとで働く小作人は売り上げの6割から7割を小作料として地主に納めなければなりません。

こうして何重にも搾取され、小作人たちの手元に残る現金はわずかです。生活できない小作人たちは地主から借金をして食いつなぐことになりますが、次の収穫時に得られるわずかばかりの収入も元利の返済に充てられ、さらに借金がかさむことになります。こうして土地を持たない農民たちは、土地に縛り付けられ、借金に縛り付けられ、地主との主従関係が出来上がります。立場の弱い農民は不満があっても仲買人や地主には意見を伝えることすらできません。

分かっていても選べない

貧しい人たちは重労働で身入りは少ないと分かっていてもその仕事をするしか選択肢がないのが現実です。その日の食事もやっとというなか、将来に向けての貯蓄をしたり、新たな仕事や事業を起こす余裕もありません。貧しい農民の子どもは小学校すら卒業できず、職業の選択肢もなく、貧しいくらしのままというケースが大半です。

ココナツ農民のくらし

ペレーズの主要な産業は、ココナツを栽培・収穫し、加工用のコプラ(ココナツの果肉をいぶして乾燥させたもので、ココナツ油の原料となります)を作るココナツ産業です。ペレーズでは地主のもとで小作人として働く人と、収穫期のみ農業労働者として働く、さらに収入が不安定な人がいます。

ココナツ農民はココナツを収穫し、固い皮をむいていぶしコプラを作りますが、とても重労働です。コプラを仲買人に売る際には、1袋(60kg)中22kgを無償提供するレシカダと言われる制度があります。また売れた金額の内50~70%は地主に納めます。そうして手に入れる現金はごくわずかで、とても労働に見合っているとは言えません。

他方、そうしてできたコプラは石鹸や油などの原料として主に先進国に輸出されますが、世界市場では非常に安く取引されています。先進国で安い商品を手に入れることができる背景にはフィリピンなどの国々で劣悪な労働環境で働く人々がいるのです。

また一次産品であるココナツの価格は世界の需要と供給のバランスによって頻繁に上下します。生産者は自分たちで価格を決めることができず、収入も不安定で先が読めない不安な状況です。

漁師のくらし

ペレーズの漁師の多くは「もり」などの簡単な道具しか持っておらず、素潜り漁をしたり、小さな船を2~3人で借りて漁に出ています。それでも20年ほど前までは2~3時間の漁で10kgぐらいの魚が捕れていました。

しかし近年、日本、台湾、中国など外国の大型漁船が近海で漁をしているため漁獲量が減り、1日働いても2~3kgしか魚が捕れなくなったといいます。

そこで地元の漁師は魚をダイナマイトで気絶させて一気に捕る、効率が良くて安価な漁法に手を出してしまいます。しかしそれによってサンゴ礁が破壊され、漁獲量がさらに減っています。

また一年の半分ほどは海が荒れて漁に出られないため、生活は非常に不安定です。多くの人はココナツ関連の季節労働と掛け持ちをしています。この2つの重労働を掛け持ちしてもなお、収入は低く、生活は苦しいのが現状です。

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