世代をこえて連鎖する貧困と、その背景
格差社会:フィリピン
経済成長率が年6%を越え、どんどん経済発展してきたフィリピン。
でも格差は広がるばかりで、経済発展の恩恵を受けるのは4割の中産階級以上のみ。フィリピン政府が定める貧困ラインを下回る暮らしをしている人々は、2300万人(23.7%)にのぼります。(フィリピン政府統計局2021)
基礎教育は、安定した仕事に就くための鍵
- マニラでベビーシッターとして働くには、小学校卒業が必須
- 工場の製造ラインで働くには、高校卒業が必須
- コンビニの店員になるには、高校卒業+英語力が必須
けれども、現在も、毎年約30万人以上の子どもたちが基礎教育を受けられずにいます。
貧困の悪循環
「貧困のため教育を受けられない」と、「安定した仕事につけない」。
「安定した仕事につけない」ために、「子どもも貧困から抜け出せない」。
この貧困の悪循環を断ち切るために、私たちは「子どもに教育」「女性に仕事の機会」を提供しています。
フィリピンの貧困を再生産する構造的問題
でも、一人一人の子どもや女性に教育や仕事の機会を提供するだけでは問題の本当の解決にはつながりません。
一人の子どもが教育を受け、安定した仕事に就くことができたとしましょう。
でも、フィリピン社会の中で「安定した仕事」の総量が限られているとしたら?
ある人が新たに「安定した仕事」に就くことは、それまで「安定した仕事」についていた人がその職を失うことを意味しないでしょうか?
農村の貧困
フィリピンで多くの人が「安定した仕事」に就くことができないでいる大きな要因の一つは、農村部における貧困です。
少し古い数字になりますが、国際協力銀行の2001年の資料によれば、フィリピンの貧困層の77.4%が農村部で暮らしているとのことです。就労人口の35.8%が第一次産業(農林水産業)に従事する(2006年)一方、第一次産業の国内総生産に占める割合は14.1%(2007年)に過ぎないことから見て取れるように、農林水産業における生産性が低いにもかかわらず、就労人口の3分の1を超える1230万人、就労者に依存している家族を含めるとその2~3倍の人口が第一次産業に依存していることになります。
農村の貧困を再生産する大土地所有制とプランテーション
こうした農村部での貧困の最大の原因は、スペイン・米国の植民地支配のもと形成された大土地所有制とその下でのプランテーション(輸出用商品作物の大規模単一栽培制度。バナナ・パイナップル・サトウキビ・ココナッツなどが生産されている)です。
大土地所有制において、実際に農業に従事する大多数の人たち(小作人や農業労働者)は自分の土地を持っていません。自分で土地を持っている自作農であれば収穫物は全て自分のものになりますが、小作人は地主に高率の小作料を収めねばならず、農業労働者は低賃金や長時間労働など劣悪な労働環境で働かされます。
また、植民地時代から、フィリピンの大部分の土地は、宗主国の利益となるようプランテーションのために使われてきました。住民の主食となる米やその他の穀物の栽培は後回しにされてきたのです。こうした構造は現代になっても変わりません。先進国に原材料や食品などを安く供給するために、農地は使われ、農業従事者は働かされているのです。そのため、農村の住民の多くは穀物や根菜類などを栽培する知識も能力も意欲も持ちません。利用できる土地があっても自給用作物を自分たちで生産するという習慣が形成されてこなかったのです。
都市部における産業の未発展
農村において貧しい生活を余儀なくされた人々は、安定した職と収入を求めて都会へ流出します。しかしながら、先進国企業と競争力を持ちうる企業の数は限られ、フィリピン国内の産業集積が未発展な中で、都会に流出してくる労働力を吸収する力は限られています。こうして、都会においても安定した仕事を得られない人々の下層は都市スラムを形成し、上層は海外での出稼ぎに向かうことになります。
先進国による支配
このように、フィリピンの貧困は、歴史的にも現在的にも、日本をはじめとする先進国と呼ばれる国々との支配‐被支配の関係の中で生み出されてきたのです。
貧困は、先進国のライフスタイルとつながっている
小さな島の一角に暮らす漁師さんは、「20年前に比べると、魚が全然とれなくなった」と話します。最大の原因は、日本などからくる大型漁船による乱獲と言われています。
スーパーの店先に安く並ぶバナナ。
その安さは、現地の農民を不公平な契約で縛り付けている結果得られた安さかもしれません。
(バナナ農家の過酷な労働の詳細についてはこちら https://www.e-banana.info )
「安く大量に」を追求する日本の消費スタイルは、時として発展途上国の人々の暮らしに大きな負の影響を与えています。
フィリピンの貧困問題を解決するのは誰か
フィリピンの貧困問題を解決する主体は、貧困の中にあって日々貧困と格闘している人たち自身です。
もう一人の主体は、フィリピンの、その他の発展途上国の貧困問題を解決したいと望む、日本の、その他の先進国の市民です。フィリピンの、発展途上国の貧困をなくすためには、日本で暮らす私たち自身の暮らしを見直すことも必要だと考えています。
貧困問題解決に向けた私たちの4つの取り組み
協力して問題を解決する力をつけることの大切さ
いじめられた時、虐待を受けた時、差別された時。きっと一人ではどうにもできず、泣き寝入りしてしまう人が多いでしょう。
「それが当たり前」「我慢するしかない」と口をふさがれることもあるかもしれません。
それは、フィリピンでも日本でも同じです。
私たちはそんな時に、「それは辛かったね。力になるから、一緒に解決しようよ。」と言える人がたくさんいる地域、世界をつくっていきたいと思っています。
誰もが初めは、一人で立ち向かう勇気や強さを持っていません。
だからこそ、「立ち上がり、協力して乗り越えていく力」をつけるエンパワメント活動を大切にしています。
子ども教育プログラムでは、保護者会や奨学生会をつくるとともに子どもの権利セミナーを実施し、家族や学校、コミュニティーの中で、支え合えあい助け合える関係を作り出すことをめざしています。保護者会や奨学生会を集落ごとに組織することで、学校に通わなくなってしまった子どもや家庭内暴力にさらされている母親など集落の中で問題を抱える子どもや女性について話し合い、問題解決に向けた具体的な行動をとれるようになってきました。
貧困の当事者が、問題解決の主体に
貧困の中で生きる人たちは、決して「弱者」や「かわいそうな人たち」ではありません。厳しい環境を強いられ、時には希望を失うこともありますが、人とのつながりやチャンスがあれば、自ら立ち上がり、問題を乗り越えていく力を持っています。
私たちNGOの役割は、その「力」を引き出すことです。困難の中にある人が、同じような境遇の人たちとつながり、支え合えるようにすること。また、「貧困をなくしたい」と願う日本の人たちとつながり、協力しあえるようにすること。そうした場をつくり、つながりを生み出し、「生きる力・変える力」を発揮できるように後押しすることが、私たちの仕事です。
そんな活動に、あなたにも参加していただけたらと願っています。