21人と旅した、画面越しの「本当のフィリピン」

このコラムの執筆者: アクセス事務局長 野田沙良(のださよ)

私の人生の転機となったスタディツアー

私が生まれて初めて都市スラムを訪問したのは、22歳の時でした。アクセスのスタディツアーに参加した時のことです。ビル街からほんの少し車を走らせ、一本横道にそれると、川沿いにびっしりと小屋がひしめくスラムが眼前に広がりました。細い路地に入っていくと、そこはまるで迷路のように入り組んだコミュニティ。狭い路地で洗濯する人、調理する人が目に入ります。物売りや通学途中の子どもたちが行きかい、小さな子どもが裸で水浴びしている。洗濯洗剤の匂いと、川から立ち上がる何とも言えないムッとした匂いが入り混じる。スラムは、私の想像の100倍エネルギッシュでした。

その夜、私はスラム内のお宅でホームステイさせてもらいました。言葉はほとんど通じませんでしたが、ホストファミリーにはとっても優しくしてもらいました。その日から私は、「貧しい人たち」という色眼鏡を外し、「ここで出会った人たちとの関係を継続したい」と思うようになりました。

こうしてスタディツアーで価値観を揺さぶられ、「貧困で苦しむ人をなくす」が私のライフワークになりました。
そして、貧困をなくすためには、「実情を理解する人、解決のために行動する人を増やす必要がある」と考えた私は、日本の人々をフィリピンの貧困地区にご案内する「スタディツアー」に全力で取り組むようになりました。

スタディツアー、無期限中止

でも、パンデミックが始まった2020年2月以降、スタディツアーは無期限中止となってしまいました。人々と心を通わせ、びっくりしたり悲しんだり笑ったり踊ったりしながら、「貧困問題のリアル」を体感する。そんな体験の機会を日本の若者たちに届けたいのに、コロナのせいでそれが全くできない。でも、私はなんとかして、そういう「世界の見え方が変わる体験」をたくさんの若者に届け続けたいと思いました。

そこで、2020年秋より、オンライン・スタディツアーの開発に取り組み始めました。初挑戦は1月。そこから9カ月、試行錯誤を重ね続けた今だから言えるのは、「オンラインだからこそ体験できることがある」ということです。長期休みでなくとも、20万円の参加費を用意しなくとも、フィリピンを体感することはできる。工夫を凝らせば、スラムのエネルギーを感じてもらうこともできる。そこで生きる人々のリアルな声や、心の機微を感じ取ってもらうことだってできる。限られた時間だからこそ、効率よく整理された形で「人の生き様」を垣間見させてもらうことはできるのだと、わかったのです。

そうして企画したのが、21年9月18日に開催した、「本当のフィリピンに出会うオンラインツアー」でした。
▼イベントの概要をお知りになりたい方はこちらから

13人のインターンと、12人の現地スタッフと

9月18日にアクセス主催で開催したオンライン・スタディツアーには、21人の参加者が集いました。フィリピンからは、4人のフィリピン人スタッフ、日本からは9人のインターンとボランティアが参加。準備段階では、13人の学生インターンが知恵を絞って企画を練り、アクセス・フィリピンのスタッフ12人が協力して動画を作成しました。知恵を出し合い、じっくり準備を重ねて当日を迎えました。

正直、3時間半のプログラムはあっという間に終わりました。オンラインなのに、熱気をじわじわ感じ、胸があったかいもので満たされたような感覚になったのを覚えています。バーチャルでフィリピンを旅したひと時は、参加者の皆さんの目にどう映ったのでしょうか?アンケートや感想共有のメモなどを見ていきましょう。

旅する前と後のみんなの声

今回、インターンの発案で、都市スラムをバーチャル訪問する前に「スラムのイメージ」をみんなで書き出してみることにしました。その時に、参加者の皆さんから出たのは、こんなキーワードたちでした。

この直後、フィリピンのスタッフが工夫を凝らして撮影・編集してくれた動画を使って、都市スラムをバーチャル訪問しました。細い路地に寝転がる猫、ベンチで昼寝するお兄さん、路地で洗濯するお母さん、聞こえてくるカラオケの音・・・ほんの10分ほどの動画でしたが、「生活のエネルギー溢れるスラム」を体感してもらえたように思います。

ちょっとドキッとしたアンケート結果

アンケートの一番最初の項目「今日の満足度を教えてください」を見た時には、ドキッとしました。
「大変不満」が3割もあったのです!「えええ~~~あんなに盛り上がっていたのになんで?!」と思いながら、恐る恐るアンケートを読み進めていったのですが…改善点を尋ねる欄にも、自由記入欄にもマイナスなコメントが見当たりません。インターンや職員とのふりかえりの中で「ふつうアンケートでは、選択項目の一番上が『大変満足』、一番下が『大変不満』になっている。じっくり読まずに『大変満足』のつもりで選択した人たちがいたのでは?」という声があがり、なるほどそうかも、となりました。真相はわかりませんが、前向きにとらえておきたいと思います(笑)。

プログラムごとの満足度はこんな結果になりました。

参加費3000円についての評価は…

参加者の皆さんの声

Aさん

たくさんの人の意見を吸収することができたりして、とても楽しく、学びのある時間になりました。フィリピンの方が本当に必要としている支援をお聞きしたとき、教育支援なのではないかという返答があり、その場しのぎの経済支援などではなく、未来につながる持続可能な支援が本当に必要とされているのだと感じました。また、私たちのような先進国の人々は、自分たちは恵まれた環境におり、スラムなどで暮らす人々は恵まれていないと錯覚しがちですが、アンドレアさんのお話を伺い、本当の強さや豊かさ、人間としての大きさを持っているのはむしろそのような人たちであり、私たちが支援しているつもりでも学ばせてもらえることは本当にたくさんあるのだと感じました。一方が何かを与えるのではなく、相互に助け合える関係というのはとても大切なもので、これからの社会を作る私たちが常に意識していなければならないものだと強く感じました。今回はありがとうございました!

Bさん

正直、すごく楽しかったです!はじめの動画と解説で実際にフィリピンに行ったような気持ちになりました。アンドレアさんのお話を聴いて、僕もどんなことがあっても自分を信じ続け、夢に情熱をもって生きようと思えました。またNGOの活動の大切さも感じれました。ただ聴くだけでなく、グループワークなどもあり、自分ごととして深く考え学べました。ありがとうございます。

Cさん

別のNPOがやっているスラムツアーに参加したことがありましたが、その時はそこに住んでいる人に話を聞くことができませんでした。今回、スラムツアーの動画と、アンドレアさんの話を聞いて、何が大変なのか、どうやって自分を鼓舞しているのか、ひとつの具体的なケースを知ることができ、大変参考になりました。

一方で、紹介されていることはフィリピン特有の問題ではないとも感じました。貧困や格差は日本にもある問題で、なぜその中から自分はフィリピンに関心があるのだろうと疑問に思いました。そこにはフィリピンが途上国だから、貧しい国だからといった無意識的な差別心があるのではないだろうかとも思いました。


電波状況が悪くスラムツアーとアンドレアさんの話の一部が聞けなかったので、動画の中身をYouTubeの限定公開などで見返すことができたらより嬉しいなと感じました!

企画・運営を担ったインターンズの声

インターン/郭潤婧さん

こんにちは!オンラインツアーでファシリテーターチームに所属していた郭(かく)です。
今回のツアーは2期のインターンに渡り、たくさんのインターン生が協力して、何度も作り直して完成したプログラムです。当日は楽しくてあっという間に3時間半が終わりました。参加者にも喜んでいただけたようでプログラム作成に携わって、本当に良かったと実感しました。私自身も参加者の意見とイベントから新たな気づきを得ることができました。

アンドレアの 「trust in yourself」という言葉が一番印象に残り、どんな状況でも自分自身を信じることの大切さを学ばせていただきました。また、その後のディスカッションでは、「いかに恵まれた環境に置かれているかを改めて気づかせてくれた」という意見に共感でき、私もこれからの毎日を、もっと意義のある時間にしていきたいと思いました。

地理的な壁を越え、全国各地の方と気軽に交流できて、有意義な時間を過ごすことができました。

インターン/渡辺榛菜さん

今回オンラインツアー開催に当たって、広報担当をメインで担当させていただきました、はるです。私は、NGO団体の活動に参加するのが今回が初めてで、このイベント企画を通して、フィリピンの現状、現地の人の想い、支援するということが実際どういうことなのか、何が求められているのかということを知ることができて、自分でも深く考えるようになりました。

やはりテレビや一方的な情報媒体で知る情報と、人と関わって知る情報には大きな違いがあって、オンラインツアーのような環境、実際に現地や支援している当事者と触れ合う機会は本当に大切で、まだまだ貴重な空間なんだと感じました。と同時に、イベント参加者の声や様子をみていると、このような環境がもっと多くの人の身近にあるようになって、人々にとって考えることが当たり前になるようになれば、必ず大きな動きがあって、状況は少しづつ変えることが不可能ではないとも感じました。

国際協力は大きくも小さくもいろんな形の方法があるし、多くの人が参加しやすい環境が今の時代ではでき始めていると思います。自分ごとになる人が今後たくさん現れることを信じて、これからも私自身も協力し続けていきたいと思っています!

大切なのは、知っただけで終わらせないこと

プログラムの最後、私から「貧困をなくすために大切な3つのこと」と題して、ミニスピーチをさせてもらいました。17歳の時に国際協力に携わりたいと思い始めたものの、ボランティアもインターンもしないまま21歳になってしまった私の例を紹介しながら、「先送りにせず行動する」「小さなアクションの積み重ねで変化は起こせる」「貧困はなくせると信じる」という3つのことをお話ししました。

中学生から社会人まで、さまざまな世代の、いろんな経験を持った皆さんが参加してくれた今回のツアー。グローバル課題の解決のために既にアクションを起こしている方もいらっしゃいましたが、学び始めたばかりの人たちにもぜひ、アクションを起こしてほしいという願いを込めてお話ししました。

「人生を終わらせてしまいたいと思ったこともあった。でも自分を信じ、周りに支えてもらいながら生きてきて、今はお金に代えられない幸せがあることを実感している」と語ってくれた、都市スラム出身のアンドレア。厳しい環境の中でも闘い続けて生きてきた彼女は、「かわいそうな弱者」では決してありませんでした。むしろ私たちは、アンドレアに生きていく上でのヒントやパワーをもらったように思います。

でも、だからといって「貧困問題は解決しなくていい」ということにはなりません。彼女の笑顔や前向きさの裏には、壮絶な痛みや苦しみや喪失体験があります。そんな痛みを経験する人を一人でも減らしたい。そう思って行動してくれる人が、このツアーを通じて増えてくれていたらうれしいなと思います。

若者に機会を届けるために、力を貸してください。

私たちアクセスの活動は、3つの要素で構成されています。

  1. フィリピンの子どもに教育を
  2. フィリピンの女性に仕事を
  3. 日本の若者に成長の場を

中でも私が一番、時間をかけて取り組んでいるのが、3つめの「日本の若者に成長の場を」です。具体的には、オンライン・スタディツアーやインターンシップという形で実施し、若者たちが世界の現状を理解すると同時に、自ら主体的に世界を変えていこうと行動することを後押ししています。

貧困や人権侵害を、「私が出会ったあの人たちの問題」と自分事としてとらえ、当事者の人たちとつながって、一緒にどう変えていけばいいかを話し合い、行動していく。そんな活動の場を日本の若者に届けるのが、私の仕事です。活動する中で自信をつけ、深い議論ができるようになり、支え合ったり協力しあう力を伸ばしていく若者たちを見ていると、世の中捨てたもんじゃないな、とうれしくなります。

今の日本には、そして世界には、自ら考え議論し、協力して変化を生み出す力を持った若者が必要です。ぜひアクセスのサポーターになって、若者たちの「変える力」を伸ばす活動に参加してください。

(了)

「変える力を伸ばす」アクセスの活動に参加して下さい。

月1000円~のマンスリーサポーターになって、「生きる力を伸ばす」活動を継続できるよう力を貸してください!

最新記事を、メールでご案内します。

本コラム欄の最新記事をまとめて、月1回のペースでご登録のメールアドレスに無料配信いたします。

「アクセスメールニュース」(無料)に、ぜひご登録ください!

✓登録メールアドレスに無料配信!
✓月1~2回、不定期で発行!
✓カラー写真入りで、見やすい!
✓SNSをお使いでない方にも便利!

「姓または名」と配信ご希望のメールアドレスをご入力の上、「登録する」のボタンを押してください。

必須


必須


この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。