フェアトレード事業にかんする、小さなケンカ~連載『フェアトレードの裏側』①

フェアトレード事業部 竹内彩帆

2020年夏の記憶

いつからその議論やトピックについて話し始めたのか正確に覚えているわけではないけれど、はっきりとそれについて私が口に出し、森脇さんと野田さんも巻き込んで話がなんだか大きくなってきてしまったのは、2020年の夏ごろだったように思います。

「それ」は、「アクセスは、なぜフェアトレード事業を続けるのか?」という根本的な問いでした。

フェアトレード担当となり、3年が経ちました。あらゆることが初めてで最初はかなり戸惑い、いろんな失敗を繰り返して、何度も辞めることを考えて、どうにかこうにか3年やってきたわけですが、その中で小さいながらも工夫や試行錯誤を実施してきました。結果として2019年度の売上は186万円、これはフェアトレード事業部職員を置くようになった2013年以来の最高額でした。その背景として、長年お取引くださる企業・店舗様や、関わり続けてくれるボランティアさん、商品のファンであり続けてくださるサポーター・会員のみなさまの存在が大きかったと思います。また、事務局内部でもそれまで担当者に事業まるごと一任していたのを少しずつ職員間で情報を共有し業務を分担する体制になってきたこと、ウェブサイトの刷新に始まるウェブコンテンツ・SNSでの広報強化に力を入れてきたことなども、売上が伸びた大きな要因です。

ところが、フェアトレード事業部はアクセスの2つの収益事業のひとつでありながら、スタディツアーと違い、赤字続きです。ビジネスでありながら、支出が収入を上回っている状態が続いています。そして、事業を黒字にするには、今の倍くらいの売り上げを立てなければなりません。うまくいっていない要因は、いろいろあると思います。またその要因を打開するための策をこれまでも取ってきましたが、それでもまだ打ち切れていないとも思います。

「一生懸命やっている割に、売上があがらない」

「売上があがらないと、頑張っていてもお給料もあがらない」

「売上があがるようにしたいけれど、ビジネスセンスがなさすぎて、どうしたらよいかわからない」

「スタディツアーは売上をつくっているのに、収益事業であるフェアトレードが足引っ張っていちゃダメじゃないか・・・」

夏から私がダブルワークを選んだのには、そのような悩みや不満、焦りが溜まりに溜まってなんとか打開策を見つけようとしたあがきという側面もありました(ネガティブな表現をすれば「逃げた」と言えます)。しかし新しい仕事が始まって慣れないことや働く時間が全体として増えたことによる疲労やストレスと、アクセスのフェアトレード事業・業務への鬱屈した感情が自分の中で毒素となり、仕事へのモチベーションと向き合い方の迷いが爆発し、論点がすり替わった状態で、事務局長である野田さんと常務理事の森脇さんに直接ぶちまけることとなってしまいました。

「フェアトレード事業という赤字事業は、やめるべきなのではないですか?」

毎年フェアトレード事業にかかる支出は340万ほどに対して、収入は売上と寄付を合わせて200万に届くかいなか、という状態が続いています。事業を黒字にするには、今の約2倍の売上を立てなければなりません。

支出は、できるだけコストカットの工夫をしてきましたが、その削減は非常に微々たるものです。黒字化のためにはやはり収入を増やさなければなりません。助成金を取得できる年もありますが、確実な収入源というわけでもないので、売上を増やすことが不可欠になります。

不良在庫はありますが、売上を増やすということは売るものも単純に増えることになります。機械による生産ではないため、現地生産者・スタッフのキャパシティや日本国内の検品をはじめとしたスタッフの稼働範囲も広げる必要がありますが、それらは一朝一夕に実現するものではありません。日本国内での販売先や販売方法も開拓し拡大していく必要がありますが、ノウハウ・スキル面でも、時間・人件費といった資源面でも手詰まりになっています。

サポーター費やご寄付をいただいて運営している、子ども教育プログラムをはじめとした”非ビジネス系”の事業もアクセスの大切な事業のひとつですが、”ビジネス系”の事業でありながら毎年赤字をつくっているフェアトレード事業を、「アクセスのごくつぶし」のように私は感じていました。

とはいえ、単純に、十分に潤うくらいに収益を上げられたらそれでよいのか、というとそういうわけではなりません。生産者の生活や人権を踏みにじったり、環境に配慮しないで資源をふんだんに使ったり、誤魔化して嘘をついて販売したりしたくはありません。事業を継続するために利益は必要ですが、「利益の出し方や過程にはきちんとこだわりたい」という気持ちもあり、それがフェアトレードを打ち出す理由なのかもしれないし、もしかすると、フェアトレードであっても割り切らなければならない部分があるのかもしれません。

野田さんは、「フェアトレード事業を実施していることがアクセスの活動のブランドになっている。フェアトレードをやっているからアクセスの活動に賛同して応援してくれている人もいるので、フェアトレード事業を止めたらアクセス全体としての支援者も寄付収入も減る可能性がある。でも、フェアトレードはビジネスであり収益事業である以上やはり黒字化しなければならないし、赤字を寄付収入が埋めている現状は打開すべき」という考えでした。森脇さんは「黒字化を目指すべきだけれども、フェアトレード事業部だけでなくアクセス全体としての収支を考えればよいから、フェアトレードが赤字だからやめるべき、というのは短絡的。それに、アクセスの今実施している事業の中でフェアトレード事業はこれからまだ大きく伸びる可能性を秘めているから、やめると判断すべきでない」という考えでした。

「赤字なんだからフェアトレード事業をやめるべき」という私の考えを伝えると、野田さんと森脇さんも各々が抱くフェアトレード事業への考え方や想いを教えてくれました。要約すると上に述べたような考えを各自が抱いているのですが、しかしながら実際は、それぞれが「ビジネス」という言葉に持つ定義やイメージが異なっていることで会話の始まりから意見が食い違っているように感じたり、それゆえお互いの考え方の偏りが目立って「相容れない」と感じられたりして、事務所内の雰囲気が悪くなりました。

おそらく、野田さんにも森脇さんにも私にも、そしてほかの職員や理事やボランティアさんにも、アクセスのフェアトレード事業の存在に抱く考え方、解決を期待している問題意識、大切にしたいことというのはそれぞれにあり、だいたいの方向性がなんとなく一致しているからこれまで進めてくることができてきたのだろうと思うのですが、その「最大公約数が何なのか」ということについて議論をし、事業の方針として打ち出し、関わる人びとに共有しメッセージを伝える、という作業はしていなかったのだと思います。

野田さんと森脇さんは、先の私の問いかけに対して各々の考え方を私に示してくれました。それはそれで、「ああ、そういうふうに考えているのか」と納得する部分がありましたが、それらはあくまで2人の答えであって、私の迷いが解消したわけではありませんでした。とはいえこのケンカや齟齬は、課題の解決策やその方法への異なる考え方、現状のとらえ方・見え方の違い、そもそも議論に使う言葉の定義や前提の相違といった要素が生んでいるものであり、それぞれがアクセスのフェアトレード事業に寄せている期待や願いや夢も含めて、対話を重ねベクトルを合わせていく必要があると考えています。

アクセスのフェアトレードを問う”旅”に出ます。

くしくも、2019~20年にかけて実施された組織基盤強化の取り組みの中で、「アクセスはどのような強みを持ち、どういったことを目指し事業をする組織なのか」を議論し言葉にする作業が行われてきました。同じ作業が、フェアトレード事業部にも必要なのではないか、という気持ちが私たちの中に出てきています。もちろん、フィリピンの生産者が生活手段を得られるように、という目的はさることながら、「自分たちの事業のゴール」を今一度見定め、そのうえで実際の業務で何に気をつけて日々を過ごしていくべきかを複数の目線からとらえ、議論し、言葉にまとめる作業の必要性を感じてきた、ということだと思います。それは、野田さん、森脇さん、私の考え方が少しずつずれて、紛糾してしまったことからも言えると思います。

そんな「アクセスのフェアトレードを問う」その方法の一つとして、このコラムに少しずつ、日々の業務を通してフェアトレードや私たちの事業について思うところを連載として書き連ねていくことにしました。この連載の終着は、決まっていません。とにかく書いて、書いて、言葉にしていくことで、普段自分たちが見つけることのできなかった価値や、厄介なしこりや、全然意図していなかった発見があるかもしれないと、微かな希望を持っています。

読者の方には、この連載という「”旅”先からの手紙」を読みながら、”旅”の様子を一緒に味わい、ともに考えていただければと思っています。”旅”先の私たちへのメッセージも、お待ちしています。どうか、ゆるやかに、お付き合いください。

(連載『フェアトレードの裏側』②へつづく)

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