「目がない」~連載『フェアトレードの裏側』②

フェアトレード事業部 竹内彩帆

連載『フェアトレードの裏側』

フェアトレード事業にかんする、小さなケンカ
②「目がない」

言ったのに、「ない」

2019年に発売した新作クリスマスカード「プレゼントベア」は、京都精華大学の学生さんがデザインしてくれたカードです。赤い手すき紙をベースにし、プレゼントの入った袋を持ったくまサンタが歩いていたら、なんと袋に穴が空いていてプレゼントが落っこちちゃった!というストーリーが詰まった、かわいいカードです。

クリスマスを控え、検品に臨もうとした2019年の9月、フィリピンより到着した「プレゼントベア」100枚すべてのカードにくまの片目がありませんでした。被っているサンタの帽子の綿に右目の一部が隠れてしまうとはいえ、最初から左目しかない違和感がぬぐえませんでした。致し方なく、ボランティアさんと共にもう片方の目を100個作って貼り付けることになりました。

①穴あけパンチを使って黒い丸をたくさんつくる、②はさみを使いながらすでに貼られている目の大きさに合うように、ひとまわり小さく円の縁を切っていく、③帽子の綿に半分ほど隠れる程度にちょうど良い場所に目を貼り付ける、というのがその工程なのですが、なかなか細かい作業で集中力を要し、時間もかかりました。

そのひと月後、同じカードを「くまに両目をつけてほしい」と伝えて再注文したところ、11月に到着した「ベア」にはちゃんと両目がバランスよく配置されていました。現地のフェアトレード担当スタッフに伝えたことがきちんと生産者に届き、改善されて日本に届きました。「しっかり伝えてくれたんだな、目をつけてくれたんだな。ありがたいなあ」と思ったものでした。

2020年、新型コロナウィルスの感染拡大を受けてフィリピンでは3月後半からロックダウンとなり、カード生産は3か月ほどとまりました。6月にカードづくりが再開し、クリスマスカードの生産がクリスマスに間に合うかやきもきしながら待っていたところ、生産者が秋に間に合わせてくれた120枚の「プレゼントベア」には、また片目しかありませんでした。

なぜ、また「目がなかった」のか

「また、目がない」という事態が生じてからすぐに現地にフィードバックを実施し原因を明らかにすべきところだったのですが、クリスマスカードの国内での納品対応に追われていた私はそれどころでなく、とりあえずお取引先から来ているプレゼントベアの注文にどう応えるかを考えるだけでした。

なぜ、また「プレゼントベアに目がない」という事態が起こったのか。

それが分かったのは、つい先日、2021年4月に現地フェアトレードスタッフであるジセルとサンドラ、そしてカード生産者団体Pangarap(パンガラ)の生産者とオンラインで、今年度の新作カードの最終サンプルを作成するための会議を設けたときでした。限られた時間ではあるけれどせっかくの直接話す機会なのだから、検品のフィードバックをしようと思い、「プレゼントベアだけど、2019年にはちゃんと両目で納品されてきたのに、2020年秋には、またすべてのカードが片目のままだった。どうして?」と訊いてみました。

生産者の言葉を英語に通訳してくれたジセルの説明では、「両目よりも片目の方がよりかわいいと思ったから、片目にした」ということでした。

それを聞いて、一緒に会議に入っていた森脇さんは、生産者に語りかけるようにこう伝えていました。

「今後は、このようなことは絶対にしないでほしい。日本では、取引先や購入者にカタログやオンラインショップなどで写真を示して選んで注文してもらっている。もし、写真とデザインが異なるものを納品したら、問題になりかねないんだ。だから、もし生産者の中で、『こっちにした方が、デザイン的にもアクセスにとっても、よりよい選択肢なんじゃないだろうか?』と思うようなことがあったら、ぜひ事前に相談してほしい」

「目がない」ベアを、どうするか?

そもそも、最初に片目がない「ベア」が納品されてきた時に、「なんで片目がないの?」とフィリピンに尋ねるという一アクションが欠けていました。デザインの途中の段階では「ベア」は片目のくまとしてデザインされていたことが、生産者が作成した複数枚のサンプルからわかっています。デザイナーとのフィードバックや相談を経て、生産者と最後に共有したサンプル(生産商品の型となるマスターサンプル)は両目のはずですが、生産の時点で生産者に何かしらの混乱を招いていたのかもしれません。なんにせよ、最初に「目がない」が起こったときの原因を追究するのを失念していたことが、また「目がない」を引き起こすことにつながってしまったのではないかと思います。

他方で、「目がない」が起こった直後の再注文の時は、現地にもフィードバックをして生産者自身が両目をつけて納品してくれました。クリスマスが落ち着いた春、2020年3月に実施した現地スタッフとの会議の中でも「プレゼントベアには、今後も両目をつけてほしい」と言及し、スタッフから生産者に改めて伝えてもらっていたはずでした。にもかかわらず、すべて片目しかない「ベア」が届くという事態がまた起こってしまったこと、そして、原因究明が不十分だったことでまたその事態を自分が引き起こしてしまったことが、私にはとても腹立たしく感じました。

片目のベア(左)と、両目のベア(右)

2020年秋、片目の「ベア」が届いたとき、「竹内さん、どうする?」と森脇さんに尋ねられました。コロナ禍でクリスマスカードの納品が迫る今、フィリピンに送り返して目をつけてもらってまた送り直してもらうには時間がかかりすぎる。とはいえ、一からカードを現地で作って送ってもらうにも、やはり間に合わない―

私は、やはり今年も片目を日本で作り貼り付ける、ただし目を作って貼るのにかかった人件費を算出しアクセスフィリピンに請求しよう、と考えました。実際に私が目を作る時間を計ると、目を一個つくって貼り付けるのに2.5分かかることがわかりました。これを、京都の最低賃金に掛け算して、日本の人件費を算出し、ペソ換算して請求する、というやり方です。

先日のビデオ会議で、「日本で目をつけるのにかかる人件費をアクセスフィリピンに請求する、とアヤホが言っている」と、森脇さんが生産者に伝えると、ビデオ越しに空気が凍ったように感じました。「なんで『私たちはこのように考えている』でなく、『竹内がこう言っている』という形で言うんだ!」と森脇さんに腹を立てながら、同時に、「このような着地点でよかったのだろうか?」という迷いが、むくむくと自分の中に湧き上がってくるのを感じました。

連載『フェアトレードの裏側』③へつづく)

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