アクセス日本 野田沙良(のださよ)
小学校支援に限定してきた理由
少しずつ就学率が向上しているフィリピンですが、現在も2人に1人がハイスクール(中学高校)*を卒業できないという現実があります。サポーターの皆さんに支えられて小学校を卒業した子どもたちやその保護者からは、「ハイスクールの方が費用がかかる、今後も継続して支援をしてほしい」という要望がしばしば寄せられてきました。同時に、サポーターの皆さんからも、「小学校を卒業しただけでは就職できないのでは?できれば進学を支援したい」というご相談をいただいてきました。
それでも私たちは、子ども教育プログラムを小学校までに限定してきました。小学校すら行けない子がまだいる、その子たちに優先してチャンスを届けたい、というのがその理由でした。
*フィリピンのハイスクールは、中学部4年+高校部2年の一貫校で、義務教育となっています。
高まるハイスクール就学支援の必要性
しかしながら、2009年から開始した支援により、少なくとも私たちが支援を行っている農漁村ペレーズ町の14村では、特別なケースを除き、ほぼ全員の子どもたちが小学校を卒業できるようになりました。
そうした変化を受け、2018年ごろから、現地スタッフからも「ハイスクール就学も支援したい」という声が繰り返し届くようになりました。「ハイスクールの方が提出物が多く、その分、費用も多くかかる」「町には小学校が7校あるのに対し、ハイスクールは1校しかなく、交通費がかさむ」といった実情を聞くと、確かに支援の必要性を感じました。
また、全国的に就学率が上がってきた結果、かつては小卒で就職できていた仕事でも、今では高卒でないと応募すらできないという状況へと変わってきていることもわかってきました。社会環境の変化により、ハイスクール就学支援の必要性はますます高まってきている。そう判断し、アクセスは2021年度から支援を開始することを決めました。
不安とためらいの末、恐る恐る…
でも、ハイスクールへの就学支援を始めるという決断は、私にとって簡単なものではありませんでした。小学生に比べてハイスクール生は中退しやすい(就労、出産、非行などが理由)という現実があるからです。
「15才で妊娠して中退した」「弟や妹を学ばせたいから、自分は中退して働くことにした」といったフィリピンの若者たちのことが頭をよぎり、ご支援くださるサポーターの皆さんの期待に応えられないのではないか、がっかりさせてしまうのではないかという不安で、なかなか決断に踏み切れませんでした。
しばらく悩んだ末、私は恐る恐る、腹を括りました。「現地スタッフと話し合い、中退させないための対策を探っていこう。うまくいかない時もあるだろうけど、その時は率直にありのままをサポーターの方にお伝えしよう。」中退してしまうことも想定の上で、若者たちや現地スタッフと一緒に、できる限りがんばってみようと決めたのでした。
中退を食い止めるのに必要なことって?
若者たちの中退を食い止めるのに必要なこととは何なのか?それを考えるヒントをくれたのは、妊娠を機にハイスクールを中退した経験のある友人の言葉です。
「トラブルだらけだった家庭環境から抜け出したい、新しい家族を持てば幸せになれるかもしれない、と思っていました。でも現実には、10代で親になるのは本当に大変なことでした。」
当時の彼女は、思春期のいら立ち、家族とのいさかい、経済的なしんどさ、友人や恋人との関係、あらゆることに悩んでいました。彼女はそうした辛さから目を逸らすように、ボーイフレンドとの関係を深め、妊娠に至ったのです。もし彼女に、安心して辛さを吐きだせる場、心の叫びに耳を傾けてくれる友人や信頼できる大人、自分のしんどさとうまく付き合うための方法を学べる場があったら、結果は変わっていたかもしれません。
これまで私たちは、小学生の子どもたちがいじめや体罰、虐待などの被害を乗り越えられるように、子どもの生きる力を伸ばす補習授業を続けてきました。この「生きる力」をもっともっと鍛えることが、ハイスクール就学支援において求められているのだと思います。
思春期に入り、大人とのコミュニケーションが難しくなる時期にこそ、自分の気持ちを認識する力、想いや考えを言葉にする力、良い人間関係を築く力、周囲に助けを求めたり支え合ったりする力が必要です。若者が自らの人生について主体的に考え、自ら決断し、自分の生きる道を歩めるように。とても難しいことですが、現地スタッフとともにチャレンジしていきたいと思います。
(了)
「ハイスクール支援サポーター」になりませんか?
今回の記事でとりあげたハイスクール支援プログラムは、日本から応援してくださる「ハイスクール支援サポーター」によって支えられています。
年間36,000円で、一人の若者を1年間、学校に通わせることができます!サポーターの方には、支援する若者から、年2回、お手紙が届きます。
一緒に、卒業をめざしてみませんか?