ストレスだらけの日々を生き抜くヒントをとどける ~アクセスの「生きる力を伸ばすプリント教材」

「誰も自分の気持ちをわかってくれない」

フィリピンの農漁村ペレーズ地区に暮らすアンジェラさん(仮名)は、コロナ禍が始まる以前から、夫の浮気が原因で、強い不安を感じたり、ひどく落ち込んだりすることがしばしばありました。その上、コロナ禍が始まって、夫が無収入に。彼女は子どもたちの食費を稼ごうと、魚を売り歩くようになりました。でも、その魚の仕入れ元に騙されたこともありました。

何より辛かったのは、義理の両親や子どもたちでさえ、アンジェラさんの話に耳を傾けてくれなかったことです。「誰も自分の気持ちをわかってくれない」と感じたアンジェラさんは、次第に自尊心や自信を失い、絶望的な気持ちになっていきました。

そんな中、アクセスから配布されたプリント教材の中でも、「効果的なコミュニケーションの仕方」と「ストレスへの対処法」は、彼女が辛い気持ちを和らげるのに役立ったと言います。教材に書かれていることについて考え、具体的な対処策を実践していく中で、自分を大切にすること、人と話すこと、友人とのつながりを重視することを学んでいきました。

今アンジェラさんは、日々の悩みやストレスとの付き合い方を知っています。プリント教材での学びは、自分のため、子どもたちのために、苦しくても闘い続けていこうと思える希望になっていると言います。定期的に集落で開いている保護者会では、自分の気持ちを打ち明けられる新しい友人を見つけることもできました。

子どもに対する暴力をなくす一歩として

アクセスが配布したプリント教材というのは、子どもたちと保護者の「生きる力を伸ばす」目的で作成したオリジナル教材です。アクセスが本格的に「生きる力を伸ばす」活動を導入し始めたのは2019年。子どもに対する暴力(いじめ、体罰、暴言、性的虐待など)をなくしていく一歩として開始しました。

当初その活動は、集落ごとに子どもたちを集めて実施する補習授業や、保護者会でのセミナーという形で実施していました。(2019年度の取り組みは、フィリピン人アーティストの協力もあって、ステキな絵本にもなりました。)しかし2020年2月にコロナ禍が始まって以降は、子どもたちの外出が原則禁止となり、保護者向けの集会も控えることが推奨されているため、対面での活動がほとんどできなくなりました。そんな中、現地スタッフが試行錯誤して生み出してきたのが、アンジェラさんのストレス軽減にもつながったプリント教材でした。

コロナ禍でフィリピンの人々が抱える悩みとは

コロナ禍であっても集落を定期的に訪問し、子どもたちや保護者の声を日々聞いている担当スタッフのライカは、こう話します。

現地スタッフのライカ

コロナ禍の影響でストレスが増加している保護者が多いことを感じています。収入が減って家計が回らないという悩みに加えて、学校の授業が在宅になったことによるストレスがあります。特に、子どもに勉強を教える時間や知識がない保護者ほど強いストレスを感じています。

ある保護者は、『布団に入って目を閉じていても、頭の中ではいろいろな心配事がぐるぐる回っていて、眠れない』と話していました。子どもたちにすぐ腹を立ててしまうことに悩む人も多いです。子どもとの関係だけでなく、パートナー(配偶者)との間でも些細なことでケンカになる、という声もよく聞きます。

子どもたちも自由に外で遊べない、以前ほどは友だちに会えないといった日常の中で、感情をうまく発散できなかったり、エネルギーをもてあましていたりします。そうしたストレスの多いパンデミック下の日常を生き延びるヒントとして、生きる力を伸ばすプリント教材は必要とされていると思います。


2020~2021年にかけ、アクセスでは表のような4つのトピックでプリント教材を作成し、配布してきました。

2020年度 上半期自己認識を深める
2020年度 下半期効果的なコミュニケーションの仕方
2021年度 上半期感情との付き合い方
2021年度 下半期ストレスへの対処法

教材を使ってみた保護者や子どもたちの声を聞き取り、教材開発に反映してきたスタッフの一人、ジェンはこう話します。

現地スタッフのジェン

これまで扱った4つのトピックのうち、『効果的なコミュニケーションの仕方』と『ストレスへの対処法』は、子どもたちや保護者にとって最も意義あるトピックだと思います。この2つは相互に関連もしていて、効果的なコミュニケーションの仕方を実践すると、誤解されたり、口論になったりすることが減り、ストレスを軽減させることができるのです。

悩みを人に話すのが苦手だったけど・・・

マスクを着用し、屋外で開催された保護者会の様子

先日の保護者会では、参加者の一人からこんな感想がシェアされました。

私は自分の悩みや考えを人に話すのが苦手でした。誤解されたり、かわいそうだと思われるのが嫌だったのです。でも、ストレスへの対処法に関するプリント教材を読んで、信頼できる人と効果的なコミュニケーション方法で話をすればストレスを発散することができるのだと知り、実践するようになりました。今では、自分の悩みを気楽にパートナー(配偶者)に話せるようになりました。夫婦で過ごす時には、ストレスになるような話は避け、例えば動物の話などのちょっとしたことでいいので、いろいろなことを話すように心がけています。それがとても役に立っていて、不安を感じることがずいぶん減りました。

アクセス奨学生のお母さんの声(農漁村ペレーズ地区)

こんな風に、家庭内の誰かが効果的なコミュニケーションを実践すると、家族みんなのストレスが緩和され、家庭内の雰囲気がよくなっていきます。ストレスが軽減された保護者の心には余裕が生まれ、子どもへの接し方もやわらかくなり、体罰や暴言、養育放棄などのリスクが下がっていくのです。

プリント教材の限界も

効果を感じる声がある一方で、「教材だけではよく理解できない」「低学年の子どもにとって、抽象的な概念をプリントだけで理解するのは難しい」といった声も挙がっています。対面であれば、子どもたちの理解度を見ながら具体例を示すことができますが、プリント教材の場合は、サポートする保護者の理解度や説明力によって大きな差が出てしまいます。「やっぱり対面でやりたいよね…」とため息をつきつつ、子どもたちの関心を引き付ける工夫や、理解しやすい簡潔な説明を模索する教材開発は続いています。

多数のスタッフの協力で作られてきたプリント教材

プリント教材は、6人以上のスタッフの協力によって開発されてきました。教材制作のサイクルは次のようなものです。

  1. 教育啓発担当スタッフが中心となって、扱うテーマについてリサーチ
  2. 教育啓発担当、事務局長、現場スタッフ3名などが参加してオンライン会議
  3. 教育啓発担当スタッフが作成した教材の草案について、現場スタッフがコメント(子どもたちが慣れ親しんだ言葉への書き換え、理解しやすい具体例の追加など)
  4. 現場スタッフが、子どもたちが楽しめるアクティビティを考案し、教材に追加(コミュニケーションをテーマにした回では「糸電話の作り方」を紹介)
  5. 完成した教材を印刷し、集落ごとの保護者リーダーに手渡し
  6. 週末、保護者リーダーが集落内の奨学生家庭を訪問して、プリント教材を配布
  7. 子どもたち・保護者が各家庭でプリント教材に取り組む
  8. 週明けに、保護者リーダーがプリント教材を回収し、スタッフに提出
  9. 現場スタッフは内容を確認し、理解度を記録
  10. 現場スタッフが各家庭を訪問し、プリント教材についての意見を聞く
  11. 子どもたちや保護者からの意見を反映して、次回のプリント教材を制作

「生きる力を伸ばす」活動から学んだこと

最後に、生きる力を伸ばすプリント教材から学んだことについて、二人の声を紹介します。

「生きる力を伸ばす」活動で私が学んだのは、ストレスへの対処の仕方です。大切なのは、自分を適切な方法でケアすることだ、と学びました。ストレス解消と称して長時間睡眠や暴飲暴食をしがちですが、それは逆効果です。定期的に体を動かす、しっかり食べてアルコールを制限する、適度な睡眠をとる、といったことは、シンプルですが、私のストレスを軽減させるのにとても役立っています。

大切な人とつながりを保つことの大切さや、その具体的な方法も学びました。例えば、電話で話す、ストレスが増すような話題を避けて楽しく会話する、一緒にごはんを食べる(オンラインでもいいので)、といったことです。こうした学びを通して、「私には問題を乗り越える力がある」と思えるようになってきました。

子ども教育プログラム担当スタッフ リザ(3兄弟を育てるワーキングマザー)

「生きる力を伸ばす」プリント教材から、私は多くを学んできました。例えば、感情をコントロールする力が伸びてきたと感じています。誰かに傷つけられ怒りや悲しみを感じた時、もし私が怒りをあらわにして、相手を傷つけるような言葉で言い返せば、喧嘩になってしまいます。私は激しい言葉を使わないようになりました。そんな時いつも、涙が出ますが、それは苦しい状況を受け入れるためのプロセスだと理解するようになりました。こんな風に私は、自分自身をコントロールできるようになってきたんです。

夫や子どもとの間で、効果的なコミュニケーション方法を実践するようになったことで、家族と以前よりも良い関係を築けるようにもなりました。職場でも、難しい仕事にトライできるようになっています。皮肉屋だったり攻撃的だったりするよりも、忍耐強くある方がずっといいんだ、と思うようになりました。

一人娘を育てるワーキングマザー(農漁村ペレーズ地区)

本事業は「連合愛のカンパ」「公益財団法人風に立つライオン基金」からの助成金と、皆さまからのご寄付で実施しました。

(了)


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この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。