「物乞いされたらどうしますか?」 35人と語り合ってみた。

このコラムの執筆者: アクセス事務局長 野田沙良(のださよ)

あなたは、「物乞い」をされたことがありますか?

私は22歳の時、フィリピンで初めて「物乞いをされる」という経験をしました。

乗っていたバンの窓を「コンコン」と静かにノックする二人組でした。目の悪い高齢の男性と、その家族と思われる女性が、渋滞で動かない車の間をすりぬけて私たちのバンに近づいてきたのです。私が二人の方に視線を向けると、女性が右手を差し出して、窓ガラス越しに「お金をください」というジェスチャーをしました。私は「ドキッ」として、どうしたらいいのかわからず軽いパニックになりました。窓ガラス越しで、何か危険なことをされるわけではないとわかっているのに、なんとなく怖くて不安な気持ちが湧き上がってきます。どうしたらいいのかわからず、私は二人から目を逸らして、前方をじっと見て時が過ぎるのを待ちました。15秒ほどすると、二人は去っていきました。

それ以降も、歩道橋の上で足のない男性が物乞いをしているのを見かけたり、ファーストフード店でガラス越しに食べ物をねだるストリートキッズに出会ったり。見て見ぬふりをしたこともあれば、小銭を渡したこともあります。犯罪組織が子どもたちに物乞いをさせて、集めたお金の大半を巻き上げているといった話を耳にした時は、お金を渡しても問題の解決にはならないのかも・・・と思ったりしました。お金を渡すにしても渡さないにしても、何もできない/わずかなことしかできない自分に自己嫌悪しましたし、何をやっても役に立っているかどうかわからないという後味の悪さを感じました。

「物乞いをされたらどうするか」

この問いには、きっと正解がありません。
たくさんの子どもたちが一斉に集まって何かを求めてきた時、一人にお金やお菓子をあげれば、他の子たちも「私にも、僕にも」となって、混乱状態になってしまうでしょう。何かを渡さなければ、身の危険を感じるようなシチュエーションもあるかもしれません。目の見えない人が楽器を演奏しながら小銭入れを足元に置いているのを見たら、ついついお金をいれたくなる人もいるでしょう。

そんな答えのない問いをテーマに、インターンと一緒に開催した2回のワークショップ。参加した皆さんの感想や、企画を担ったインターンの声とともに、内容をご紹介します。

距離も年齢差も越えて

「物乞いされたらどうしますか?」という問いに対して、「あげる」「あげない」「それとも…」から1つ自分の答えを選び、その理由を話し合うという、シンプルなこのワークショップ。20年ほど前にアクセスのスタッフが開発し、ここ数年、私がアレンジしてよく実施しているものです。

今回は2回のワークショップに、合計35名もの方々が参加してくれました!オンラインで開催したため、宮崎、福岡、愛知、宮城といった日本の各地から参加してくれたほか、ドイツからの参加もありました。高校生から社会人まで、幅広い年代の人たちが参加してくれ、とってもあったかい時間になりました。

参加者の皆さんの意見が並んだ、オンライン・ホワイトボードをご覧ください。

参加した社会人

住んでる場所も年齢も専門分野も違う人たちと話せる機会はなかなかないので、とても良い機会でした。

参加した大学生

国外からも参加できるのは本当に良かったです。またみなさんの熱い想いやそれぞれの異なった視点、知識、経験からの意見は私にとって本当に貴重な時間でありプレゼントでした。

ワークショップで伝えたかった、「答えを更新し続けることの大切さ」

このワークショップでは、問いに対する「正解」を提示することはありません。参加者一人ひとりが自分の考えを伝え合うことを通じて、互いに視野を広げあい、議論することの楽しさと重要性を体感してもらうというのが、このワークの役割だと考えているからです。

生まれ育った環境や経験してきたことが違うさまざまな人と話し合うと、自然と視界が広がっていきます。今まで信じてきた「当たり前の答え」が覆され、「あれ、こうかもしれない」と意見が変わっていく。目の前にたくさんの「そうかもしれない」が提示され、その中から自分なりの「こうだと思う」を選び取っていく。「議論する」とは、自分の中でそうした前向きな変化が起こっていく、ワクワクするようなプロセスです。また、良い議論に参加すると、一人で考えている時には思いもよらなかった新しい「自分の考え」を手にすることができます。

答えのない問いに対して、「答えがわからないから考えるの、やーめた!」と投げ出してしまうのではなく、議論を通して「今日の自分の答えを更新し続けていく」。貧困や人権侵害のない世界を創るには、そんな議論する力、答えを更新し続ける力を持った人が増えていく必要があると思っています。

参加者の皆さんの声

高校生 Kさん

ワークショップに参加する前は、「もし自分が物乞いをされたら、お金や物を当然渡すだろう」と考えていました。でも、たくさんの人の意見を聞き、物乞いをする人たちには、自分が思っていた以上に複雑な背景があり、その場で手を差し伸べようとするだけでは根本的には何も解決できなかったり、危険性があったりするのだと感じました。将来の自分に生かせるよう、今日だけの学びにせず、心に留めておきたいと思いました。

大学院生 Sさん

私の今日の答えは、「どこに繋がっているか分からないからお金は渡さないけど、食べ物や自分が負担に感じないモノなら渡しても良いのではないか」というものです。

最後にあった、正解が出なくても自分の答えを出してアクションに繋げるという話が印象的でした。

私は実際に物乞いをされた経験がないので、どうやって断ればいいのだろうと考えていましたが、何か渡すことが間違いというわけではないと知ってさらにモヤモヤしました。でも、自分なりにどうしたらその人の為になるのかを考えて、アクションを起こしながら考え続けたいと思いました。

大学生 Tさん

身近にこういうテーマで話し合う機会がなかったのでずっとワクワクしっぱなしでした。正直もっと話したかったです!!「今日の自分の答えを導き出す。そんな日々を更新していく」ことが大事だと知れたことが今日一番の発見でした。これまでは「物乞いされても渡さない」と自分の中で結論を出していましたが、「その日自分の感じたままに行動する」ことも間違いではないのだなと視野が広がった気がします。もっと自分の中で考えてみたいなと思います。

19名が回答してくださった参加者アンケートより、ワークショップの満足度

企画・運営を担ったインターンズの声

インターン/バスネットさん

こんにちは!今回のワークショップで、広報を務めたバスネットです。明確な内容を宣伝するには、ワークショップを提供するファシリテーターと、他のアクセスの仲間との合同作戦が必要でした。それから、今回ワークショップに参加した方々の考えを言葉の積み木として重ねていくことが大事だと実感しました。時間が限られている中で、また現在のコロナの現状の中で、あらゆるメディアを利用して宣伝するのはチャレンジでしたが、だからこそ、自分たちが成長できるチャンスでもありました。

インターン/大貫さん

初めまして!物乞いワークショップでファシリテーターを務めました大貫です!物乞いワークショップ、めちゃくちゃ楽しかったです!みなさん思うことが違い、違う視点からとらえ直すことができました。途中でトラブルもありましたが、より雰囲気が和らぎ、終始和やかな時間でした。これもアクセスの魅力だと思います!初対面とは思えない空気感はアクセスならではです!参加者にも喜んでいただきイベントを全力で作って良かったです!

フィリピンを体感し、議論の楽しさも味わえる!オンラインツアー開催します

海外に行けない今。オンラインだからこそできるフィリピンとの交流プログラムを企画しました!

治安が悪く、リアルなスタディツアーでは訪問できなかったような都市スラムの奥の奥まで、バーチャルでご案内します。また、都市スラムで生まれ育った女性のライフストーリーを聴ける、貴重なプログラムも。フィリピンの人たちとリアルタイムで交流しながら、フィリピンの魅力と課題の両方を体感できるプログラムです。

バーチャル旅やライフストーリーの感想を参加者同士で話し合う時間もあり。異なる視点を持った参加者と議論することで、自分の考えが整理されていったり、新しい視点や刺激をもらうこともできるはずです。

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この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。