元スタッフが語る、子どもの権利推進の12年間(後編)

ペレーズ地区で子ども教育プログラムをスタートさせてから10余年。アクセスの、子どもの権利をベースにした「子どもに優しいコミュニティ作り」は、どうやって形作られてきたのか? プログラム発足当時のことを知るフィリピン人(元スタッフ)に、話を聞きました。前後編の後編をお届けします。

前編はこちらから

クリンさん 社会福祉士/アクセス・フィリピン元スタッフ

前回までのあらすじ

2009年、農漁村ペレーズ地区で子どもたちの支援をしていた現地スタッフたちは、子どもたちの学力アップと組織化を目的としたサマークラス(夏休みに開催する無料の補習授業)を計画しました。授業の3/4は学力向上を目的として読み書き計算を、残りの1/4は子どもの権利をテーマに、子どもたちが支え合える関係を作れるようなワークショップという内容です。

この時に大切にしたのは、学力を伸ばすという個への支援だけではなく、子どもたちや保護者、地域の人々をつなげ、相互に支え合う・助け合う関係性の形成(=組織化)を重視するということでした。学力アップのための授業には、地域の10代の若者たちにボランティア参加してもらいました。また、サマークラス中に保護者に給食を作ってもらうことで、保護者の組織化もすすめていくことをめざしました。

給食づくりを通して変化していった関係性

一緒に調理したおかずを、大なべから取り分ける保護者の方々

フィリピンで暮らす母親たちの多くは、自分の子どものことを気にかけるので精いっぱい。なかなか地域の子どもたちのことにまで、目が向きません。そんな中、サマークラス中は3~4人の保護者の班をつくって、交代で給食作りをしてもらうことにしました。調理活動を通じて、同じ地域で暮らす子どもたちやその家族についても知り、気にかけあえるような関係を育んでもらおうと考えたのです。

1か月の活動を終えた時、少しではありますが、明らかに保護者たちの様子が変わっていることを感じました。かつては多くの保護者はとてもシャイで消極的でしたが、活動を通して保護者同士や保護者と子どもたちとの心の距離が縮まり、打ち解けた関係に変化していたのです。

こうした関係性を築くことは、子どもたちがちゃんと学校に通えているかや、子どもたちの家族が問題を抱えていないかを把握するのに役立ちます。サマークラスの実施前、ある奨学生の保護者が結核にかかっていたのですが、アクセスはそのことを把握していませんでした。何人かの保護者はそのことを知っていましたが、アクセスに報告するほどのことじゃない、報告したところでどうにかなるものでもない、と思われていたのでしょう。

保護者同士の関係性が改善して情報共有が進むにつれて、その事実がアクセススタッフにも伝わり、問題の解決に向けて動けるようになりました。フィリピン文化として、家庭内の問題をあまり外に話したくないという傾向がある中で、たまたまその家庭の困りごとを知った保護者が、その人のことを心配してアクセスのスタッフに伝えてくれ、解決への動きにつなげることができました。「良い関係をつくる→問題が共有できる→話し合って解決策を一緒に考える」という流れを生みだすことができたのです。

「体罰はダメ」、ならどうしたらいい?

保護者向けの子どもの権利セミナーの様子

サマークラス期間中、保護者の皆さんを対象にした子どもの権利セミナーも実施しました。「子どもがいうことを聞かない時、叩いたり怒鳴ったりするのは子どもの権利侵害にあたる」という内容を伝えた際には、保護者から意見が続出しました。「言っても聞かない子には、叩いてわからせるしかないんじゃないか」「体罰がダメっていうなら、一体どうしたらいいの?」「子どもが権利を主張し始めたら、大変なことになるんじゃないの?」…といった声でした。

当時まだ20代前半で、子育て経験のない私の話は、保護者にとってはあまり説得力がなかったのかもしれません。すると、アクセスの先輩スタッフで、子育てパパでもあったアーチさんが、こんな風に話をしてくれました。

子どもが間違ったことをした時には、それがどうしてよくないのか言葉で説明して伝えることが大事です。叩けば、怖がってその時はやらなくなるかもしれませんが、なぜダメなのかを理解させることはできません。言葉でコミュニケーションをする方が、時間はかかるかもしれませんが、子どもにきちんと理解させることができます。

この1カ月、スタッフのクリンは、サマークラスの中で子どもの権利について子どもたちに丁寧に話をしてきました。始まる前は僕も、子どもたちには難しすぎて理解できないんじゃないか、と思っていました。でも実際やってみると、子どもたちはちゃんと理解できたんです。

例えばサマークラス中のワークショップで、地域内の地図を子どもたちと一緒に作ったことがありました。地域の中で、遊べる場所、怖いなと感じる場所、安心できる場所、大人の助けを求められる場所、などを地図に書き込んでいくワークでした。そのワークを見ていて、子どもたちは、さまざまな状況や環境を理解する力があるんだと実感しました。スリッパや棒で叩いたりしなくても、話し合いを通して物事を理解する力が子どもたちにもあるんです。

アーチさんが子育て中のパパという立場からこんな風に伝えてくれたことで、保護者の皆さんの理解がグッと深まったのを感じました。

子どもたちとのふれあいの中で、若者たちにも変化が

サマークラスを実施するにあたり、青年会(地域の若者グループ)のメンバーにも協力を依頼しました。アクセススタッフだけでは人手が足りなかったので、理科や算数を教えるのを手伝ってもらいたかったというのもあります。しかし、単に人手不足を補ってもらうという意味だけではなく、若者に新しい経験をしてほしいという狙いもありました。「地域のために行動する」という経験をしてもらいたかったのです。ほとんどの青年会メンバーは町の中心部に暮らしていて、奨学生よりも経済的に余裕のある家庭に育っていました。ですから、若者たちは、町から離れた不便なエリアに住み、栄養失調だったりする奨学生に出会って驚いていました。

サマークラス開催当初、奨学生たちはアクセスが用意したクレヨンや色鉛筆がうれしすぎて大はしゃぎ。テンションが上がって調子に乗った一部の子が、クレヨンを隠してしまうという出来事がありました。それを知った青年会メンバーはすごくびっくりし、「そんなことするなんてありえない!」と怒りました。私たちスタッフはそんな若者たちに対して、「この子たちは経済的に厳しい家庭で生まれ育ったから、自分のクレヨンを手にしたこともない。そういう反応をしてしまうこともあるんだよ。」と説明し、子どもたちの生まれ育った背景を理解した上で、良いふるまいを教えていくことが大切だと伝えました。

青年会メンバーに勉強を教えてもらう子どもたち

実は青年会メンバーは、このサマークラスを手伝うということに、当初は全く関心を示しませんでした。「え、なんでそんなことせなあかんの?」という感じだったのです。でも、子どもたちと出会って数週間、一緒に活動していくうちに、彼らは子どもたちのことを大好きになっていきました。最終週、残り数日になったとき、若者たちは村の大人たちに「子どもたちをもっとサポートしてあげてほしい」と訴えるようにまでなりました。この活動を通じて、若者たちは子どもたちに教えることの楽しさを実感し、地域には大変な暮らしをしている人たちがいるということを理解し、また自分にそれほどお金がなくとも困っている人のために行動できるんだということを理解するようになりました。そんな風に変化していった彼らのことを、私はとても誇りに思っています。

地域の人たちをめいっぱい巻き込んで

サマークラスを初めて実施した2009年は、私たちのプログラムに参加するすべての人々をめいっぱい巻き込んで、また助成金もフル活用して、最大の結果を出そうと取り組んだ期間でした。奨学生がサマークラスで学んでいる間、保護者やフェアトレード生産者は給食を作り、青年会メンバーは子どもたちを教える…地域の人たちが協力して、子どもたちが安心して学べる環境を作ったと言えます。

(了)

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目標達成まであと27人!

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