国境を越えて 第6回:非当事者として貧困問題の解決に取り組む(3)

アクセス常務理事 森脇祐一

以下の文書は、2011年10月から2013年8月まで、国際経済労働研究所機関誌「Int’lecowk」誌上に「未来への扉-国際協力NGOの活動から見えてくるもの」と題して15回にわたって連載したものである。

連載『国境を越えて』

第1回:ボランティアという活動 ─ 当事者運動と非当事者運動の出会いが生み出す「共」性
第2回:国際協力とボランティア性
第3回:フィリピンの貧しい人々
第4回:非当事者として貧困問題の解決に取り組む(1)
第5回:非当事者として貧困問題の解決に取り組む(2)
◆第6回:非当事者として貧困問題の解決に取り組む(3)

前2回は、ベーシックヒューマンニーズを満たすための方法として、チャリティプログラムおよび生計プログラム(貧しい住民たちが自分たち自身でモノやサービスを生み出すプログラム)について、その特徴と課題を見てきた。

その中でチャリティプログラムは、モノやサービスの提供が、支援する側から支援される側へと一方向的に行われがちであり、支援される側は受動的な存在にされてしまう傾向にあること、その結果住民の間で支援への依存を生み出し、支援を行うNGOや支援者への従属関係さえも生み出してしまう危険性を持っていることを指摘し、それを克服するために支援を受ける住民のエンパワメントが大切であることを述べた。こうして問題は、「ベーシックヒューマンニーズを満たすこと」から「支援を受ける住民のエンパワメントを通じた主体性・能動性・潜勢力の解放」へと開かれた。

他方、生計プログラムにおいては、受益者たちが自ら組織を作り運営すること、意思決定の仕組み、決定事項の遂行の仕組み、会計等資産管理の仕組みなど、組織運営に関する最低限の知識と技能を修得すると共に、民主主義的な人と文化の育成を必要とすること、共有されるべき共通の倫理や組織のルールを自ら生み出し、それらに基づいて協働することの重要性を確認した。問題は「個人の収入の機会を増やすこと」から「集団で創造し民主的に物事を解決する力」へと開かれた。

だが、これだけではなお不十分であり、問題はさらに「民主主義の地域への拡張」へと押し広げられねばならない。

より貧しい人へ

プログラムを進めていく上で、地域との関わりが重要となるのは、まず、NGOの、予算と受益対象者という制限をもつプログラムをコミュニティーの外部から持ち込むという方法に起因する。例えば、筆者の所属する団体は弱小であり、予算規模は小さく、個々のプログラムは一つのコミュニティー全体をカバーするほどの経済規模を持たない。それゆえ、私たちはプログラムの受益者を選ばなければならず、そのための基準を設定する。選定基準の一つは経済的により困窮していることであるが、例えば「月3000ペソ(約6000 円)以下の収入」と基準を設定してもなお、該当する人々すべてを受益者とすることはできない。そうすると、同じ地域において同じような経済状態にありながらプログラムに参加している人と参加していない人とが必然的に発生する。NGOが、チャリティーであれ、生計プログラムであれ、ある特定の受益者を対象とするようなプログラムを実施する場合、常について回る問題である。

とりわけ、生計プログラムが発展しより安定した収入源となった場合、それをいかに地域の他の人に拡大していけるかが問われる。つまり、既存受益者集団内での利益再分配から地域のより貧しい人々への受益者の拡大が課題となる。が、これは必ずしも生計プログラム自身に備わった内在的な論理とは言えない。むしろ、放置すれば、前回も指摘したように既得権を家族主義的に確保する圧力が支配的になる。そこでは、NGOが「地域のより貧しい人へ」という理念と実践を外部から持ち込むことが不可欠の要素となる。ここにおいても課題は、民主主義的な人と文化の育成である。

地域的な課題への取り組み

さらに、地域に固有の、その地域の貧しい人々にとって共通の、解決されるべき社会・経済構造的課題があり、そうした課題に取り組む必要がある。それは、都市貧困地区でいえば、居住する土地への安定的な居住権の問題であり、農村地区でいえば、大土地所有制の問題、農地改革の問題である。

都市貧困地区住民の大多数はいわゆる「スクワッター」(土地「不法」占拠者)であり、政府や民間所有の土地の上に家屋を建設し居住している。フィリピンでは都市貧困地区住民たちの長年にわたる運動により、一定の年月を居住した土地への居住権は法的に認められるようになったが、それでも政府による「都市再開発」や民間企業による「商業地区への土地転換」による強制立ち退きの脅威に潜在的にさらされ続けている。強制立ち退きの場合、法により一応再定住地を用意しなければならないことになっているが、再定住地の目途もないまま「開発」が進められることも珍しいことではない。また、仮に再定住地が用意されても、多くの場合郊外の辺鄙なところに追いやられることによって、それまで住民たちが築いてきた生計を得るための、あるいはセイフティーネットとしての種々の社会的諸関係は破壊される。再定住地で生計手段が得られなければ、食い扶持を求めて都心部に戻って来ざるを得ない。それゆえ、強制立ち退きは住民にとって死活問題であり、自らの生存権を訴え、行政や開発業者と粘り強く交渉する力、団結して闘う力、広く社会に対し支援を訴える力を持つことが必要となる。

強制立ち退きに反対し、若者たちがデモ行進をしました

他方、フィリピン農村地区の貧困の最大の原因は大土地所有制にある。小作農は収穫の6割から7割を小作料として地主に納めなければならず、所得が低く抑えられる。また、小作農にもなれず土地にアクセスできない住民が多数存在することで相対的過剰人口が形成され、農業労働者の賃金も低く抑えられる。にもかかわらず、輸出用商品作物の栽培を目的としたプランテーションに従事する小作農や農業労働者は、自家用・地域消費用作物(主食の米や根菜類など)を栽培する手段や知識・技術・経験を持たず、少ない貨幣収入で食糧を得ることを余儀なくされている。他方、一部のブルジョア的な農業経営を行う地主を除き、多くの地主は灌漑設備の改良等農業生産力向上に関心を持たない。何もしなくても一族が生活するのに十分な小作料収入が入ってくるからである。これに、とりわけ90年代以降の新自由主義の下、先進国で大量生産され政府の補助金に後押しされた「安価」な農産物との競争が加わり、農村の疲弊は進む一方である。こうした中で、小作料の引き下げや賃上げを要求し、交渉し、闘争し、勝ち取る力、自ら作物を植え、育て、収穫する力、農地解放を実現する力を持つことが必要になる。

さらに、女性や子ども、障害者、民族的マイノリティといった社会の周縁に追いやられている人々の権利の擁護や、上下水道、電気、教育や保健医療といった社会的インフラへのアクセスなども、地域全体で取り組み解決されるべき課題として存在している。

地域的な課題に取り組む民主的な住民組織の形成へ

地域コミュニティーを発展させ、より安定した生活を築くためには、貧しい人々によるこうした地域の構造的課題への取り組みが不可欠であり、そうした取り組みを行うことのできる地域コミュニティーに対応した住民組織の建設が必須課題となる。その際、貧しい人々が集住する地域と一言でいっても、人々の生活のあり方は多様であり、地域内部での経済的・政治的・社会的格差は厳として存在し、格差に応じた 経済的・政治的支配が存在する。行政の末端組織であるバランガイ(村)は、一般的にはより上位の行政単位(市や町)と結びついてコミュニティー内の支配階級・階層のための支配装置となっており、アプリオリに貧しい住民の利害を代表する組織として利用できない。

私たちのプログラムの受益者となった住民たちは、自己の経済的利益のための参加から、プログラムの担い手・組織の運営主体としての自己の集団的組織化、さらにプログラムの外にいるより貧しい人の組織化へと向かうことが求められている。そして、最も貧しい人たちによる、最も貧しい人たちの立場に立って地域の構造的課題を担う住民組織-民主的で、貧しい住民自身が自己統治のために協働する組織-を建設することが求められているのである。

以上、エンパワメント(問題を自分たち自身で集団的に解決する力を身につけること)をキーワードとしながら、貧困問題を解決するための方法論について見てきた。

これを踏まえて、次回以降は、日本のボランティアがNGO活動という形を通じて、非当事者として外部からフィリピンの貧困問題に取り組むことの意味と意義について、すなわち支援するNGOと支援される貧しい住民との関係はどのようなものであるのか/あるべきか、そして貧しいフィリピンの住民を支援するNGOや、 NGOをボランティアで支える日本の市民とは一体何者であるのか/あり得るのか、について考えてみたい。

(第7回に続く)↓↓↓

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