フィリピンで新型コロナにかかった人の話。

東南アジアで2番目に多い感染者数(42万人以上)を記録しているフィリピン。医療が日本ほど整っていない中で、感染した人たちはどんな経験をしているのでしょうか?また、周囲の人々はどんな想いを抱いているのでしょうか?

今回は、身近な人が新型コロナに感染したという現地スタッフに話を聞いてみました。なかなかマスメディアで取り上げられることのない、フィリピンのコロナ事情/医療事情を少しだけ覗いてみましょう。

ジセルの叔父さんのケース

フェアトレード担当ジセル

ジセルは、フェアトレード生産者の暮らし向上のため、主に4つの任務を担当しています。
1.日本側と生産者の間に入り、受注・納品の調整
2.原材料の調達
3.フィリピン国内や、日本以外の海外の取引先を増やす営業活動
4.新商品の開発

私の叔父が軽い咳をし始め、しばらく後に呼吸困難で病院に駆け込んだのは7月のことでした。検査と診察の結果、新型コロナと結核の両方に感染していることがわかりました。叔父は私立病院に入院し、複数の抗生物質の投与による治療を受けました。幸い、治療が効いて症状が改善していったので、挿管されることはありませんでした。PCR検査にかかった費用は、公的保険制度からの一部補助と高齢者割引が適用されて3,000ペソ(注1/約6,000円)でした。治療費の総額まではわかりませんが、一部は公的医療保険(フィルヘルス)で補われました(注2/注3)。

叔父の検査結果が出るまでは、私もずっと不安にさいなまれていました。叔父はもう高齢ですし、叔母と二人暮らしで、息子(私のいとこ)は海外に暮らしているのです。近くに住む別の叔父が、付き添いで一緒に病院に行きました。付き添ったことで、その叔父も感染している可能性がありました。付き添い後に病院から戻った叔父は、家の外で水浴びをして服を着替え、その後は自室で1週間、自己隔離してすごしました。幸い、付き添った叔父も、同居していた叔母も感染はしておらず、ほっと胸をなでおろしました。

そして入院から約一週間後、感染していた叔父は元気になり、PCR検査の結果も陰性となって、退院することができました。

注1:フィリピンの法定最低賃金(マニラ)は1日500ペソ(約1,000円)。

注2:PCR検査料は病院によって異なります。安価な検査であれば、全額が保険でカバーされ自己負担はありませんが、結果が出るまでに何日もかかることがあると言われています。私立病院で検査を受けた場合、また迅速に結果が出るコースを選んだ場合などは、検査料が高額になります。

注3:都市部の私立病院で治療を受けた、とある新型コロナ患者の治療費は110万ペソ(220万円)。公的保険制度フィルヘルスが指定する病院で治療を受ければ、最大78万ペソは公的保険でカバーされます。
https://ph.news.yahoo.com/coronavirus-much-pay-020011172.html

街中で見かけた、「簡易抗体検査、やってます!」と書かれた検査機関のポスター。

ペレーズ住民のケース

子ども教育担当ジェン

ジェンは、農漁村ペレーズの子どもたちをサポートするため3つの任務を担当しています。
1.就学支援(学用品の提供)
2.子どもの権利啓発(セミナーやワークショップの開催)
3.生きる力を伸ばす(補習授業の実施)

9月、私たちが支援する奨学生の保護者が新型コロナに感染したということがわかりました。マリアさん(仮名)は検査結果は陽性でしたが、無症状でした。もう一人のジェニーさん(仮名)は、検査結果が陽性とわかった日に発熱もしており、島で唯一の公立病院に搬送されました。でも熱はそれほど高くなく、しばらく入院したのち、すぐに回復しました。PCR検査については、公的医療保険でカバーされ自己負担はなかったようです。治療費については詳しくはわかりません。

アクセスのスタッフとして、いろんな家庭を訪問して働いている私としては、日々会っている人々のうち誰が感染者なのかわからないことがとても不安です。万一、自分が会った人が感染していて、自分を介して子どもたちに感染させてしまったら…という不安が常につきまといます。

感染した場合は、病院や隔離施設に入ることになっています。もし万一、子どもが感染して無症状だった場合、隔離施設で1人きりで過ごさなければならなくなるかもしれません。子どもが一人で、食事も身の回りの世話も自分で行い、一人で眠ることになるのでしょうか。そうなってしまったら、その子は心細さで、毎晩泣いてしまうでしょう。私自身も子を持つ親として、そんな不安を日々抱えて過ごしています。

フィリピンの医療・保険事情

医療従事者の日比比較

下表のとおり、フィリピンの医者の数は、日本の半分程度です。特に地方では、医療従事者の数とともに、医療設備も不足しています。アクセスが活動しているアラバット島は人口4万人が暮らす島ですが、公立の病院が1つだけです。この病院では、輸血用の血液が十分に備蓄されていなかったり、超音波などの検査機器もそろっていません。

フィリピンの人々が抱える「感染してしまったらどうしよう」という強い不安の背景には、そうした医療体制の脆弱さがあります。

 人口1000人あたりの医者数人口1000人あたりの看護師数
フィリピン1.2人8.5人
日本2.4人11.0人

*フィリピン:Fitch Solutions [Worldwide Medical Devices Market Factbook 2019]
*日本:OECD Health Statistics 2016

公的医療保険制度「フィルヘルス」

フィリピンの公的医療保険「フィルヘルス」は、加入者数9,345万人(92%/2015年12月)。低所得者や先住民の人々については、政府や自治体が保険料を負担することになっています。

日本の保険制度と大きく異なるのは、その保険内容です。フィリピンの場合、「病気や処置の内容」「重篤さ」「かかった医療施設の種類」などによって、カバーされる金額が異なるのです。例えば喘息で治療を受けた場合、重篤なケースでは最大9000ペソ(約18,000円)まで保険でカバーされます。ただし、「基礎保健施設にかかった場合は最大6,300ペソ」という条件がついています。

2020年4月より、新型コロナによって非常に重篤な肺炎になった場合は、最高で78万ペソ(約156万円)まで保険でカバーされることになりました。おかげで、フィルヘルスに加入できている人々にとっては、新型コロナの治療費についての心配は軽減されました。

しかしその一方で、人々が何より恐れているのは「感染したら、しばらくの間は働けなくなる」という現実です。自治体によっては、感染者が出た集落に対して「感染経路調査の実施期間中は外出禁止」という規制を課すことがあり、外出を伴う仕事をしている人々は、たちまち収入を絶たれてしまうのです。

来年のクリスマスは、思い切りパーティーができることを祈って

一時は、1日5000人もの新規感染者が出ていたフィリピンでしたが、11月に入ってからは1日1500人前後まで減り、少し落ち着いてきています。まだまだ外出・移動の規制はありますが、PCR検査をした上での国内旅行が許可されるようなったり、10人以下での集まりも行われるようになってきました。

そんな中、政府が「今年はクリスマス・パーティーの開催は禁止」と、大真面目に発表しました。さすが、クリスマスをこよなく愛する国フィリピンです。感染を抑え込むには、確かに今年は少しパーティーを自粛した方が良いのだろうと思います。

自由に移動し、気兼ねなく人と会って握手やハグできる日はいつになるのでしょうか。先のことはわかりませんが、今はただ、会うことのできないフィリピンの友人たちのことを思い浮かべ、みんなの健康を祈るほかありません。来年のクリスマスには、フィリピンの人たちが思いっきりパーティーを楽しめますように!


*フィルヘルス(Philhealth)について

フィリピンの公的医療保険「フィルヘルス(Philhealth)」は、フィリピン健康保険公社が運営しています。政府は、国民皆保険にしていくことを目指し、低所得者や先住民の人々については保険料を政府や自治体が負担するといった施策を進めています。

保険料は、収入や雇用形態によって異なります。被雇用者で月収が1万ペソ未満の人の場合、保険料は月300ペソ(約600円)で、使用者と労働者が保険料を折半して150ペソずつ負担します。自営業者(露天商・ジープニー運転手といったインフォーマル部門の人々を含む)や個人事業主の人々は、保険料を全額自己負担する必要があります。いずれも、収入が上がるにつれて保険料は高くなり、最大で月1,800ペソとなっています。

(了)

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この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。