子どもにやさしいコミュニティを目指して

本記事は2014年にアクセスのニュースレターに掲載されたものです。

発足5年で150人に アクセスの子ども教育プログラム

アクセスでは、アラバット島ペレーズ地区で、小学生のための子ども教育プログラムを2009年に開始しました。経済的な理由で学校に通うのが難しい家庭が対象です。日本のサポーターからの18,000円のご支援で、一人の子どもが1年間学校に通うことができます。発足して5年、奨学生の数は初年度の13人から150人に増えました。

アクセスの子ども教育プログラムでは、学校に納めるお金、文房具や制服などを支給するだけでなく、毎週土曜日に補習授業を行ったり、近畿労働金庫の協力により給食を提供したりしています。また、日本のサポーターや支援者の皆さまに支援してもらうだけでなく、自分たちの抱えている問題を自分たちの力で解決するために、奨学生会や保護者会を作り、互いに助け合い協力し合いながら、給食の調理をしたり、補習授業で使っているセンターの清掃をしたりしています。

子どもに優しいコミュニティを

子どもの権利ワークショップの様子

さらに、アクセス子ども教育プログラムでは、2011年から“子どもに優しいコミュニティづくり”のための事業を進めてきました。“子どもに優しいコミュニティ”とは、子どもたち一人一人の人権が守られ福祉が向上していく、そんなコミュニティです。

国連が定める「子どもの権利条約」では、子どもたちは以下のような4つの権利を持っているとされています。

  • 生きる権利・・・衣食住や医療など生きていくために必要なものやサービスを受ける権利
  • 育つ権利・・・教育を受けたり、休んだり遊んだりする権利
  • 守られる権利・・・いじめや体罰、虐待や放置、搾取などから守られる権利
  • 参加する権利・・・家族や地域社会の一員として、自由に意見を言ったり、集まってグループを作ったり、活動したりする権利

こうした子どもの権利に関して、奨学生会や保護者会を対象としたセミナーや研修を行い、一人ひとりの意識の向上を図ってきました。

そして、子どもの権利に関する学習は、単に知識を学ぶことにとどまらず、一人ひとりの意識の変化に、そして行動の変化、親子関係の変化につながっていきました。

子どものしつけに変化が

多くのことを学べる奨学生向けのセミナー

2011年までは、子どもたちへの体罰は一般的に行われていました。自分の子が何か間違いをすると、それを正すために叩いたり、叱りつけたりすることが当たり前に行われていたのです。そして、行政の末端としての村もそうした子どもへの虐待を許容していました。村の役員でさえ、子どもたちの福祉を保護する法律があることを知らなかったのです。

そんな中で、アクセスは子どもの権利に関する研修やセミナーを始めました。最初の変化は奨学生の子どもたちの間に現れました。他方、親たちがしつけの方法を変えるのは簡単ではありませんでした。保護者の1人エドナ・ヴァレンシアさんは、「息子に、『僕には誰にも、お父さんやお母さんにさえも、虐待されない権利があるんだ』と言われた時は本当に驚いたわ」と言います。それでもセミナーや研修を継続し、子どもたちを虐待から守ることを学ぶことで、保護者たちは、たとえ怒っている時であっても、前ほど声を荒げないようになっていきました。子どもへの体罰は、今ではもう滅多に見られなくなりました。

こうして、少しずつ意識を変え、行動を変えていった奨学生や保護者が核となり、自分たちが変わるだけではなく、周りの人たちにも働きかけ、コミュニティ全体を変える努力をしてきました。

「子どもの保護のための村評議会」の設立

フィリピン大統領令603号(「子どもと福祉に関する法律」)は、「すべての村議会は子どもの保護のための村評議会を奨励すべきである」と定めています。「子どもの保護のための村評議会」(通称BCPC)は、子どもと若者が安心して健全に成長していけるような環境づくり、しくみ作りを担うことが期待されています。具体的には、BCPCは以下のような課題に取り組みます。

BCPCの取り組み

  1. 子どもたちの教育促進
  2. 若者の非行防止、問題を抱える子どもの保護者への助言やサポート
  3. 子どもの健康の維持・改善
  4. 子どもの養育やしつけに関する啓発
  5. コミュニティ内での健全な遊び場や遊び・娯楽の促進
  6. 村の子どもたちに関する統計資料を作成、更新
  7. 村の行政計画に子どものプログラムを取り入れること
  8. 保護が必要な子どもたち(育児放棄、虐待、依存など)を保護・援助すること    など
BCPCの重要性を話し合う保護者会

村評議会が「子どもに優しいコミュニティ」宣言を採択

この大統領令を手掛かりに、アクセスは、子ども教育プログラムを最初に開始したペレーズ地区ビリヤマンサノ・スール村において、奨学生会・保護者会と共に「子どもの保護のための村評議会(BCPC)」の設立を訴え、2012年度に実現しました。さらに、2013年4月20日には、同村議会が「子どもに優しいコミュニティ」宣言を採択しました。

徐々に根付いてきた「子どもに優しいコミュニティ」

子どもの保護のための村評議会(BCPC)は、村長、村議員、栄養士、幼稚園教師、看護師(助産師)、小学校長(担当教師)、村警官、村青年会長、子ども代表、PTA代表、NGO代表(アクセス職員)などの13名で構成されています。そのうち7名がアクセス子ども教育プログラムの保護者会・奨学生会のメンバー、1名はアクセス職員です。つまり、保護者会・奨学生会が同評議会の推進勢力となっているわけです。

こうして設立された評議会ですが、次のステップは、地域の子どもたちのために具体的なアクションを起こしていくことです。評議会のメンバーたちが村の子どもたちの権利と福祉の問題を認識し、問題を解決するための行動計画を立て、村議会として子どもたちのための施策を実施できるようになることが求められます。しかし、評議会メンバーの中には、子どもの権利や福祉に対する理解が不十分な人たちも少なくありません。そこで、これまで奨学生の保護者を対象に行ってきた子どもの権利と福祉に関するセミナーに、評議会のメンバーにも参加してもらうようにしました。

セミナー前半は、子どもの特徴、発達、態度、振る舞いについて理解した上で、どのように接することで子どもの健全な発達をサポートできるのかといった、しつけや育児に役立つ内容でした。中盤は、身体・精神・発達障がいを持つ子どもたちの特徴について学び、障がいのある子どもたちの成長を促す、適切な接し方などについても学びました。後半は、虐待・搾取・差別から子どもを守るための法律について学びながらその予防について考えたり、少年法の内容を学ぶことで非行の防止と介入についても考えました。

先進コミュニティから学ぶ、スタディツアー

評議会の運営について質問するメンバー

さらに、子どもの保護のための村評議会の活動を成功させている、マニラ首都圏ケソン市にある二つの地区を評議会メンバーと保護者会・奨学生会の代表が訪問し、他の地区の評議会活動の実例と経験を学ぶスタディツアーを実施しました。二地区とも、「評議会が機能するようになるまでには、数年間の学習と試行錯誤の積み重ねが必要だった」と、異口同音に話していました。特に、子どもの権利に関する国際条約や国内法の学習と、地方政府・NGO・その他の市民団体との協働が、村議会が具体的なプログラムや活動を実施するうえで不可欠であることが強調されました。

動き出した、子どもたちのための施策

こうした進展の中で、ビリヤマンサノ・スール村では、警官による夜間の見回りが強化されるとともに、18歳未満の子どもたちの午後9時以降の外出が原則禁止されました。また、女性と子どもに対する暴力を訴えるための手続きが整備されました。これらは、麻薬やシンナーなどの犯罪から子どもや若者を守るため、また大人・子どもを問わず女性を性暴力や虐待から守るためのものです。子どもの虐待や性的虐待に関する裁判には、評議会メンバーが出席するようになりました。子どもや女性に対する暴力は完全に無くなってはいませんが、こうした住民の努力によって、少しずつ減ってきています。

地域住民の手で、子どもたちを守るために

BCPC先進地域を訪れた際、首都マニラを歩く保護者と奨学生

その他にも、子どもたちの健康・衛生、教育、安全、児童労働など解決すべき問題が残されています。こうした問題を解決するのは、外部者としてのアクセスではなく、まずもって地域の住民であり、問題を抱えている子どもたち自身です。設立され、動き始めた子どもの保護のための村評議会を村の住民たちが最大限活用し、自分たちの力で問題を解決していけるようになること。評議会のメンバーたちが、村の子どもたちが抱えている問題を解決するために、行動計画を立て、村議会に計画を採択させ、予算を確保し、計画を実行し、モニタリングすることができるようになること。これらは、住民の多くが十分な教育を受けていないこの村にとって、決して簡単なことではありませんが、子どもに優しいコミュニティの実現に向けて、最大限のバックアップをしていくことが、アクセスの果たすべき役割なのです。

(了)


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今回の記事でとりあげた子ども教育プログラムは、日本から応援してくださる「子ども教育サポーター」によって支えられています。

年間18,000円で、一人の子どもを1年間、学校に通わせることができます!サポーターの方には、支援するお子さんから、年2回、お手紙が届きます。

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