新型コロナに揺れる世界で、 フィリピンの人々とともに

ロックダウンが与えた貧困層への衝撃

ロックダウンにより通行止めになり、人影のなくなったマニラ首都圏内の道路

2020年3月17日、私たちの事業地を含むフィリピンのルソン島全域に、新型コロナ感染拡大防止を目的としたロックダウン(外出禁止令)が発出されました。3月17日時点での感染者数は187人と、日本の873人より少なかったのですが、医療体制が整っていないフィリピンでは、感染が拡大した場合のダメージが大きいという懸念から、思い切った対応がとられたようです。

その日から、私たちアクセスのスタッフは、日々関わってきた貧しい農漁村や都市スラムの子どもたち、その家族の暮らしが心配でたまらなくなりました。漁に出たり、ココナツを収穫したり、路上で物売りをしたりゴミ拾いをしたりして働くことができなくなった。それはつまり、貧困層の人々にとって、突然の収入の断絶を意味しました。貯金などほとんど持たないそうした人々は、食べるものにも困る日々に突入したのです。

「働かせてほしい」という電話から

農漁村や都市スラムの人々のことが気にかかる。でも、日用品の買い出ししか外出が許されないロックダウン下では、フィリピンの現地スタッフも自由に動き回ることができません。現地スタッフも日本のスタッフも、もどかしい想いで日々を過ごしていました。

そんな時、現地スタッフのジセルは、フェアトレード生産者の一人から電話を受けます。「どうしても働かないと食べていけないの。日本から注文は入ってない?どうか仕事をさせて。」日本からフィリピンへは、メッセージカードもココナッツ殻雑貨もたくさんの発注をかけていました。ところが、外出して作業場に行くことができません。外出者がいないか警察などが監視する中で、生産者は、リスクをとってでも稼ぎたいと思うほどに追い詰められていたのです。

自由に働けていたころのフェアトレード生産者

ジセルはその電話をきっかけに、行動することを決意。スマホで他の現地スタッフと密に連絡をとり、思うように動けない中でもできる支援のカタチを企画書にまとめ、日本にいる私たちに送ってくれました。

そんな中、日本では元フェアトレード事業部ボランティアの今町くんから、こんな連絡を受けました。「新型コロナがフィリピンでの暮らしにもかなり影響を与えているとSNSで知り、何かできないかと自分なりに考えてみました。アクセスのフェアトレード商品の予約販売を募って『コロナを乗り越え生産が再開した暁にお届けします』というのはどうでしょう?」

フィリピンのジセル、そして日本の今町くんの「声」がきっかけとなり、私たちは「労賃前払いの寄付つきフェアトレード商品セット」を企画することを決めました。(おかげさまで、5月4日から販売をスタートした本企画は、多くの方々からのご協力により全132セットを売り切り、終了しました。)

どうやってフェアトレード生産者を支援するか、オンライン・ミーティングでジセルと相談

寄付つきフェアトレード商品セットの詳細はこちらから

希望を失いかけている人たちに伝えたい

フィリピン事務局長のリサさん

ジセルから提案があった数日後、アクセス・フィリピン事務局長からも相談がありました。「支援を、フェアトレード生産者以外にも拡大できないかな。教育支援をしてきた家庭の保護者からも、『苦しい、力を貸してほしい』と悲鳴が届いていて…。日本の人たちに協力を呼びかけてもらえない?」そうメールをくれたリサさんは、ベテランの現地スタッフ。30年にわたり、貧困の中で必死で働くお母さん・お父さんたちをつねに励まし、子どもたちが教育を受けられるよう支援し続けてきた女性です。

ロックダウン対象地域の自治体は、住民に対する支援や補償を行っていますが、その内容には大きくばらつきがあり、内容も十分なものではありません。たとえば、農漁村ペレーズ町に暮らすアーリーさんは、「ロックダウン開始から3週間で、食糧配給が行われたのは1回きり」だと話します。その内容は、米3kg、缶詰3缶、インスタント麺3袋。5人家族であれば、切り詰めても2日分の食料にしかなりません。海に出て魚をとったり、家庭菜園がある家庭はまだよい方で、それすらできない人々は、親戚などから借金をして生き延びているのが現状です。

リサさんのメールには、こう書かれていました。

「厳しく苦しいこの状況の中でも、あなたのことを気にかけている人たちがいるんだ。そのことを、支援を通して伝えたいと思っています。できることは小さいけれど、その小さいアクションを通して、苦しみをわずかでも軽減させたい。辛く、絶望的に思える状況の中でも希望はあるんだ、と感じてもらうことができたとしたら、なんとかこの苦境を乗り切る精神的な一助になると思うんです。」

3日分の食費を236世帯に

支援金と豚肉を受け取った奨学生の一家、農漁村ペレーズ地区にて

人々の直面する困難をすべて取り除くだけの力は、私たちにはありません。でも、政府・自治体からの支援にプラスする形で、少しでも食費を提供することができれば、飢えに耐えなければならない日を1日でも減らし、ほんの数日でも心の余裕を取り戻してもらうことができるでしょう。そう考え、私たちは子ども教育プログラムでサポートしてきた奨学生の家庭236世帯を対象に、1世帯あたり500ペソ(約1,000円/米12.5㎏に相当)の支援を行うと決めました。

農漁村ペレーズ地区では、副町長の許可を得て、村長・村議員とも調整したうえで、4月15日から1週間かけて197 世帯に支援を提供することができました。担当したペレーズ在住スタッフのライカからは、「食料と支援金を手渡した時のみんなのうれしそうな顔を、日本の皆さんに見せたかった!あの表情を目にしたら、支援がどれだけみんなにとって大きな意味があったか、実感してもらえたと思います。」と、メッセージが届きました。

ペレーズ在住スタッフのライカ

お母さんたちの声

シェリリンさん (奨学生チェリーちゃんのお母さん)

建設の仕事のためカビテ州に出ていた夫は、ロックダウンにより移動を禁じられ、帰ってこられずにいます。生活費を稼ぐすべがない中、既に独立した息子から、ときどき食料を分けてもらい、何とかしのいでいます。我が家にはテレビがなく、暇を持て余した子どもたちを家に閉じ込めておくのは本当に大変です。今回いただいた支援金で、調理用の炭を買おうと思っています。子どもたちには、おやつを買ってあげたいですね。

ジェニーさん (奨学生アライサちゃんのお母さん)

家族全員、元気にしていますが、娘のアライサの足が化膿し、悪化しているのが気がかりです。ロックダウンに入ってから、魚の缶詰しか食べられずにいて、栄養状態がよくないことが影響していると思います。今回、豚肉のご支援をいただけたので、魚缶以外のものを食べさせてあげられるのがうれしいです。

今、生活は本当に大変です。食料買い出しのための外出を許されているのは、我が家で私だけです。夫は心臓発作を起こしてから働けなくなっていて、それ以来、私は家具工場で働いてきましたが、今は仕事をさせてもらえず収入がありません。ときどき警官が見回りにやってくるのですが、警官を恐ろしく感じます。

まさかの火災、1000世帯以上が被災

家々を焼き尽くしていった火事の様子

そんな中、マニラ市トンド地区(都市スラム)では、4月18日の午前中に大火事が発生。なんと4,115人もの人々が焼け出され、三密状態の避難所暮らしを強いられることになりました。火災現場は、アクセスが活動してきたエリア(ヘルピング)のすぐそばでした。延焼により、アクセスが支援してきた奨学生2名の自宅も被災しました。

そうした状況下で、アクセスからの食費・食料の配給活動を一日も早く実施したかったのですが、自治体からの許可がなかなかおりず。現地在住スタッフのジェイミーが奔走し、ようやく5月9日、10日に37世帯への支援を実施することができました。

現場で奔走してくれた現地スタッフのジェイミー

「コロナ疲れ」の私の心を明るくしてくれたのは…

世界中が不安に包まれる中、私自身もこの1か月、「コロナ疲れ」で心身ともに弱りきっていました。楽しみにしていたライブも延期になり、悲しみや苛立ちばかりが心に溜まっていく。そんな日々の中、フィリピンとのやりとりが、思いの外、私の心を明るくしてくれていることに気づきました。

食費支援を検討し始めた時は、「アクセスの経営状況も厳しい中、食費支援に使う資金を集められるだろうか」という不安がよぎり、決断を躊躇いました。でも、支援を受け取った人々のうれしそうな写真が送られてきたときには、自然と顔がほころんで、心がじんわりとあたたかくなったのです。自由が制限され楽しいことも少ない日々でも、「誰かと何かをシェアする」ことで、人の気持ちはちょっと明るくなるものなのだなぁ、と実感した瞬間でした。

また、制限された環境の中でも、今回の支援を行うために、フィリピンの現地スタッフとは、いつも以上に密にコミュニケーションをとることになりました。すると、不自由な環境でも忍耐強く工夫して活動する現地スタッフのがんばりが手に取るように伝わってきて、そのことが私にとっては大きな励みになりました。

日本事務局内でも、体調がすぐれない私をカバーしようと、他のスタッフがそれぞれの持ち場で底力を発揮し、ボランティアやインターンを巻き込んで活動を紡いでくれています。苦しい状況だからこそ、一緒に活動する人たちの頼もしさをしみじみと感じています。

アクセス理事の一人が先日、「『危機』っていう漢字はよく見ると、リスク(危)とチャンス(機)って意味なんだよね」と話してくれました。新型コロナという大きなリスクは、変化するための大きなチャンスになりうる。私たちは今、国境を越えて同じ想いをもつ人たちとつながりながら、工夫する力や、協力する力、しなやかに生きぬく力(レジリエンス)をともに育みあっているのかもしれません。

★ロックダウン下の暮らし:電車、バス、ジープニー等の公共交通機関は停止。食料や日用品を生産する企業は操業継続。銀行、スーパーといった小売店は営業。それ以外の企業や公共施設などは閉鎖されている。「日用必需品へのアクセスのため外出できるのは、一家庭につき一名のみ」「高齢者、妊婦、持病のある人は外出禁止」といったルールも発表され、警察官や自治体職員、軍隊が動員され、住民の外出を監視しており、違反者は逮捕されている。アクセス事業地があるマニラ首都圏およびケソン州は、5末日までロックダウンの延長が決まっている。

★社会福祉開発省による、貧困層対象の給付金(P5000~8000ペソ/約1~1.6万円)の支給が始まり、少し状況は改善しつつある。既に支援金を受け取ったペレーズ在住の女性は、「米と紙オムツとミルクの購入で全額使い果たしました」と話す。

★5月23日現在、フィリピンの感染者数は13,777人、死者数は863名、回復者は3,177人です。保健省は、感染者数の増加は緩やかになっているものの、まだ予断は許されない状況との見方を示しています。

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この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。