【活動20年目 火山被災地のチャレンジ】意識も行動も、変えていける!

本記事は2017年にアクセスのニュースレターに掲載されたものです。

しつけ?それとも虐待?

フィリピンの首都マニラから、車で時間ほどのところにある、ミトラ地区でのこと。

両親に捨てられた姉妹を引き取って育てていた老夫婦がいました。ある日、ちょっとした行き違いから、その女性が姉妹を罵るというできごとがありました。それに反発した姉妹は一晩、家出。まだ小学生だった二人は、なすすべもなく老夫婦のもとに帰ってきたのですが、この養母は罰として二人の髪を剃ってしまいました。そのまま学校に行けば先生やクラスメートたちにからかわれると考えた二人は、3ヶ月は学校に行きませんでした。その間、二人は村にあるゴミ分別所でリサイクルできるものを拾って働いていました。その後、近所の別の夫婦に引き取られ、家の仕事を手伝うのを条件に妹は学校に通えるようになったものの、姉は学校を中退してしまいました。

同地区では、先住民族アエタの18歳の少年がある日、近所のニワトリを盗んでしまい、村の保安官に逮捕されるという出来事もありました。この少年に村議員たちは、「私はニワトリを盗みました。申し訳ありません。どうか許してください。」と書いたダンボール紙を首から吊り下げさせ、村中を回って、一軒一軒大きな声で、紙に書いたことを言わされるということがありました。

この2つのエピソードを読んで、皆さんはどんな風に感じられるでしょうか。フィリピンの子どもたち、若者たちが置かれている環境の難しさを垣間見ることができるのではないでしょうか。

一見のどかで平和に見えるフィリピンの農村でも、親から子への虐待や体罰、地域の人々による子どもたちの権利侵害は少なからず起こっています。しかし村の住民の多くは、「他所の子のことに干渉するのはやめておこう。自分の子どもを守るだけでいいのだ。」という意識が強いのが現状です。被害を受けた子どもたち自身が、もしくは家族や地域の人たちが声をあげることは非常に難しく、体罰や虐待の被害は、なかなか無くすことができない難しい問題です。

統計から見る、子どもたちの人権状況

2016年に子どもの福祉協議会(Council for the Welfare of Children)とUNICEF が発表した調査によると、フィリピンの子どもたちの8割が、何らかの暴力を経験したことがあることがわかっています。

約3割の子どもが身体的な暴力を経験し、その半数は家庭内で起こっています。6割の子どもたちが、暴言・脅し・放置といった心理的暴力を、2割の子どもたちは性的暴力の被害にあったことがあります。その多くは親族によるもので、被害者の中には男子も少なからず含まれています。

こうした被害者のうち、被害を届け出たという子どもは1%にすぎません。母親や家族に被害を相談したことがある子どもたちも1割たらずでした。仮に子どもたちが自治体や警察などに被害届を出したとしても、人材や資金の不足により、適切に対処できない場合が多いのが現状であることがわかっています。

大統領令603号を活用して

子どもにやさしいコミュニティ作りの一環として開催されたセミナーの様子

そんなフィリピンで、私たちが2地区(農漁村ペレーズ地区と、ピナツボ火山被災地ミトラ地区)で取り組んでいるのが、「子どもにやさしいコミュニティ作り事業」です。子どもたちにどんなに教材や文具を与えても、いじめや虐待の中では、子どもたちのすこやかな成長は期待できません。地域の人々の意識を変えることからスタートし、村の子どもが辛い思いをしていたら、住民同士で協力しあって注意したり対策をとったりしていけるようなコミュニティづくりをすすめるというものです。2011年からペレーズ地区で取り組んでおり、その経験を生かして、ミトラ地区でも2015年から事業を開始しました。

フィリピン政府は大統領令603号において、「子どもの保護に関する村評議会」(以下、村評議会)の設立を奨励しています。その目的は、村単位で子どもたちの福祉・安全・健康・健全な道徳環境を確保することです。村議員、保護者会の代表、社会福祉士、教員、保健省の職員、NGO職員などで構成される委員会を設置し、子どもたちの人権擁護のために機能しなければならないことになっています。そのための予算措置もとられているのですが、しばしば村議員たちがこの予算を使わずにうやむやにしているようなケースもあり、村評議会が設立されている村は多くありません。ペレーズ地区でもピナツボ地区でも、アクセスが声をかけるまでは、村長や村議員ですら大統領令603号について多くを知らないといった状況でした。

好評だったセミナー、もっと多くの保護者へ

保護者向けセミナーで、冗談を言い合いながらも真剣に意見を出し合う保護者の皆さん

ミトラ地区での具体的な取り組みとして、2015年9月22日から連続セミナーを開始しました。地域の保護者を主な対象として、「個人としての私・親としての私」「しつけの課題」など1年間で7回のセミナーを行い、保護者の方々の意識をゆっくりと変えていくことをめざしました。内容は保護者からも評判がよく、実際に子どもたちへの接し方に変化が見られましたが、参加者数が各回平均17名(対象者数56名の3割)と少なかったことが課題として残りました。また、2016年8月までに「子どもに優しいコミュニティ宣言」を村議会で採択することも目標に掲げていましたが、それも叶いませんでした。

そこで2017年度は、大阪コミュニティ財団からの助成金と、38名の方からのご寄付を活かし、2015年度からの課題を乗り越え、子どもに優しいコミュニティ作りを前進させようと活動を行っています。

【2017年度事業の内容】

  1. 保護者・子ども計56名を対象とした8回連続セミナー
  2. 啓発のための壁画作成
  3. 啓発パンフレットの作成と配布
  4. 子どもの4つの権利に応じた4つの保護者委員会、生徒会委員会の設立
  5. 委員会と村議会との定期協議の開催
  6. 子どもに優しいコミュニティ宣言の採択
連続セミナーの3回目の様子

上半期は連続セミナーの第1回~第3回を実施し、また4つの権利に応じた委員会の設立を終えることができました。「子どもに優しいコミュニティ」宣言についても、2つの村で採択され、10月12日には、初めての村評議会も開催することができ、順調に事業は進んでいます。

今年度の最大のチャレンジは、セミナー出席率を向上させることでしたが、嬉しいことに参加者数は各回35名を越え、対象者56名のうち6割強が参加してくれるまでになりました!コーディネーター補のジェネットが、保護者役員の家を訪ねたり、携帯メールでリマインドしたりと、丁寧な声かけをしてくれたおかげです。また、アクセスの実験農場で育てたマンゴの売上金を使ってちょっとしたおやつを用意したことも、子どもたちの参加率を上げた要因になっているかもしれません。

子どもたちと保護者では参加率に大きな差がありました。子どもたちの場合は対象者の8割以上、保護者の場合は5割ほどの参加率だったのです。保護者がセミナーを欠席する最大の理由は、仕事でした。行商人、雑貨店経営、ブロック製造所の労働者の人たちは、仕事を休むと収入減に直結するからです。今後は、こうした参加しにくい層に配慮した曜日・時間帯での開催を検討していく必要がありそうです。

今年度のセミナーには、村議会の書記の方が出席して積極的に意見を出してくれたり、村長が差し入れを持ってきてくれたりしていることも、嬉しい変化です。今後も、地域を引っ張る村議会の人たちの積極的な参加を促していきたいと思います。

スタッフや保護者の声

ピナツボ地区コーディネーター補 ジェネットさん

連続セミナーのおかげで、子どもを叩いたり、罵ったりする保護者が減ってきています。何度言っても子どもが言うことをきかないと、ついかっとなってしまうものですが、今では、口の中で1から5まで数えてから注意する人が増えています。一度家の外に出て、考えた上で子どもを説得したり、自分の気持ちを伝えたりする、ということも実践する人が増えました。

ピナツボ地区幼稚園教員 アイリーン先生

私自身、幼稚園の教員をしていて、以前は大きな声で生徒に指示したり、木の棒で黒板を叩いて生徒の注意を引いたりしていましたが、それが子どもたちに逆効果になっていることがわかり、そうしたことを改めています。

全校PTA会長 ジョビさん

以前に比べて、子どもへの体罰や罵倒が減り、子どもに静かに言い聞かせるようになってきました。また、子どもたちの共通の課題である栄養のことをみんなで協力して解決していこうという想いも強まってきて、保護者間で給食の調理当番を押し付け合うようなことが少なくなりました。

もう一歩先へ

10月12日に開催された、初めての「子どもの保護のための村評議会」

子どもに優しいコミュニティの実現の最初の一歩は「何が権利侵害なのかについて、子どもたち自身と大人たちの理解が広がること」ですが、2015年度に比べてその理解は広がり、深まってきたように思います。また、権利侵害を受けた時・見つけた時に通報することができる「子どもの保護のための村評議会」も設立されました。設立された4つの委員会には、通報されてきた問題について話し合い、解決策を検討したり、対処策を講じたりすることが期待されています。

次のステップは、この仕組みをしっかりと機能させていくことです。ペレーズ地区の場合、事業開始から6年かかりましたが、この仕組みが少しずつ機能するようになっています。例えば、近所の人が育児放棄で不登校になっていた子どもを早い段階で見つけ出し、アクセスと地域の保護者が協力して子どもの復学を実現する、といったことができるようになってきたのです。

ペレーズでの経験から、私たちは「時間はかかるけれど、意識も、行動も変えていける」という確信を持っています。変化を作り出していくことは簡単なことではありませんが、ペレーズ地区での経験を糧に、ミトラ地区のスタッフは奮闘を続けています。

■ミトラ地区

フィリピンの首都マニラから、北に車で2時間ほど。

1991年に噴火したピナツボ火山とそこからの土石流で、元の村が約10メートル下に埋まってしまった地域が、パンパンガ州ミトラ地区です。

被災から16年間は教育施設がまったくなく、復興から見棄てられた土地でした。2007年にアクセスが幼稚園を開設して以降、少しずつ復興が進み、2014年には被災後初の小学校卒業生を送り出すことができました。

■ ピナツボ地区年表

1998年 実験農場をスタート、ミトラ地区の住民は4世帯のみ
2008年 日本の支援者の協力で、小学校校舎(2教室)完成
2008年 34名の生徒で小学校の授業開始
2010年 日本の支援者の協力で、追加2教室建設
    近畿ろうきんの支援で、給食事業を開始
2014年 被災後初の小学校卒業式、幼稚園・社会教育センター建設
    フィリピン政府の官民連携事業として4教室の校舎が完成
2017年 生徒数230人、教員7人、1学年1教員体制が整う

※本事業は、大阪コミュニティ財団の助成金と、皆様からのご寄付により実施しました。

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