元スタッフが語る、子どもの権利推進の12年間(前編)

ペレーズ地区で子ども教育プログラムをスタートさせてから10余年。アクセスの、子どもの権利をベースにした「子どもに優しいコミュニティ作り」は、どうやって形作られてきたのか? プログラム発足当時のことを知るフィリピン人2人(現役事務局長と元スタッフ)に、話を聞きました。前後編に分けて、お伝えします。

置き去りにされてきた課題「虐待」が、流行語に

リサさん アクセス・フィリピン事務局長

フィリピン政府が、虐待や子どもの権利についての政策に力を入れ始めたのは2002年のことです。アロヨ大統領の時代に、「子どもの保護のための法律」が作られました。でも、施行当時はあまり積極的に取り組まれず、村長や村議員もその法律についてほとんど知らないという地域が多い状況でした。子どもの虐待や権利侵害が横行しているという現実は、十分に対応されないまま置き去りにされていました。

そんな中、2009年ごろに全国ネットのテレビ番組が、虐待を受けた子どもからの電話相談を受けつける窓口「バンタイ・バータ」を設置。このことがきっかけで、一気に子どもの虐待についての関心が高まりました。毎日、「子どもの虐待を見かけたらお電話を」と呼びかけるCMが流れたことの影響は大きく、子どもから大人まで「虐待といえばバンタイ・バータ」とすぐ口にするくらい、流行語のように浸透していきました。

そうした社会全体の意識変化の中で、多くのNGOが子どもの権利や虐待への対応をするようになっていきました。私たちも、そうした流れの中で子どもの権利に取り組むようになっていったのです。2000年から活動してきた農漁村ペレーズ町を重点地区とし、子ども教育プログラムの活動の一環として、子どもの権利保護にまつわる取り組みを開始しました。

そもそも、子どもの権利とはどんな内容なのか?それを理解している人がとても少ない状態からのスタートでしたから、子どもたちや保護者を対象に子どもの権利セミナーを繰り返し実施しました。セミナーには村長や村議員にも参加してもらい、子どもの権利保護に関する法律の意義を丁寧に伝えました。その上で、法に基づいて「子どもの保護のための住民協議会(通称BCPC)」を村議会内に設立し、子どもに優しいコミュニティ作りを住民主体で進めていくことを後押ししたのです。こうした取り組みの結果、地区内の大人たちの意識は大きく変化し、子どもたちの権利侵害を減らすことにつながりました。権利侵害があった時に、地域の大人が協力して子どもの保護や問題の解決のために行動する体制もできてきています。

サマークラスに「子どもの権利」を導入した理由

クリンさん 社会福祉士/アクセス・フィリピン元スタッフ

「与えるだけの支援」ではなく

私がペレーズ地区の子ども教育プログラムに関わるようになったのは2009年のことです。その際、当時の事務局長ティトさんから、こんな話がありました。

ティトさん(2009年当時の事務局長)

子ども教育プログラムを開始したことで、子どもたちが安心して学校に行けるようになり本当によかった。今後は、子どもたちの成績を改善していきたい。単に卒業させるだけでなく、卒業した子どもたちが地域のために、後輩たちのために力を貸してくれるようになっていったらどんなにいいか。そういう意味では、『与えるだけの支援』ではなく、子どもたちや保護者が支え合ったり助け合ったりする関係づくり、『組織化』にも力をいれていきたいよね。

そこで私たちは、子どもたちの学力アップと組織化を目的としたサマークラス(夏休みに開催する無料の補習授業)を計画しました。授業の3/4は学力向上を目的として読み書き計算を、残りの1/4は子どもの権利をテーマに、子どもたちが支え合える関係を作れるようなワークショップを行うことにしたのです。

この時に大切にしたのは、学力を伸ばすという個への支援だけではなく、子どもたちや保護者、地域の人々をつなげ、相互に支え合う・助け合う関係性の形成(=組織化)を重視するということでした。学力アップのための授業には、地域の10代の若者たちにボランティア参加してもらいました。また、サマークラス中に保護者に給食を作ってもらうことで、保護者の組織化の場ともすることにしました。

どうして子どもの権利?

私は大学でソーシャルワーク(社会福祉)を学んできたので、その中で、人権や子どもの権利についても学び、権利の重要性を理解していました。卒業後にアクセスに就職し、農漁村で活動するようになって気づいたことがありました。それは、人々の中にある「あきらめ」であり、「参加する権利」が行使されていないということでした。

村で出会う人々の中には、貧困や権利侵害を日常的に経験しているのに、それを「抜け出せないもの」「しょうがないこと」と受け止めて、希望を持たずに生きている人たちが少なからずいました。そうした人たちは、日々の暮らしの中で何がどんな風に大変なのか、何をどう改善したいか、といったことを言葉にせず、希望や目標を持つことを諦めていました。私はそれを何とかしたいと思いました。自らの想いや考えを言葉にし、解決のために自ら行動する。すべての人に与えられた大切な権利の1つ、「参加する権利」がうまく行使できずにいると感じたのです。

貧困も人権侵害も、どうしようもないことではありません。一人ひとりの中に、現状を変えていく力があります。自分のしんどさを言葉にし、同じ想いの人たちとつながり、一緒に考え行動することで、少しずつ状況は変えていくことができます。でも、そのことが地域の大人に、しっかり自覚されていない。そのことを考えた時、子どもの就学支援をするだけでは足りないと思いました。子どもたちが「あきらめ」を内面化してしまう前に、子どもたちに「参加する権利」の大切さを伝えなければ。一人ひとりの中にある変える力に気づけるようにし、希望を持てるようにし、自分の願いや考えを表現したり、現状を変えるために行動できたりするようにする…つまり、「エンパワメント」が必要だ!と思いました。

「それは権利侵害だからやめて」と言えるように

子どもの権利には4つの柱があります。

  1. 生きる権利
  2. 育つ権利
  3. 守られる権利
  4. 参加する権利

サマークラスでは、特に4つ目の「参加する権利」について、しっかり子どもたちに理解してもらい、自分の想いを言葉にできるようになってほしいと願いながら取り組みました。参加する権利(発言する権利)を知ることで、もし周囲の誰かが権利侵害を経験したら、それを誰かに伝えて、助けを求めるといったことができるようになってほしいと思いました。

権利という抽象的な概念を伝えるのは簡単ではありませんでしたが、インターネットや本でリサーチした情報をわかりやすく整理し、子どもにもわかるシンプルな言葉で説明したり、動画を子どもたちに見せたりしながら、子どもたちと話し合いました。

ファシリテーター役を担ったクリンさん(左から2番目/白いTシャツ)と、ワークショップに参加した子どもたち

例えば、親が子を叩くことについて、「愛しているから叩くんだ」という考え方が地域全体で根付いていました。でも「体罰は権利侵害なんだ、間違ったやり方なんだ」ということを伝えていきました。最初は、子どもたちから「こんなの間違ってる」「困ったらバンタイ・バータの相談窓口に電話すべきだよ」といった反応もありました。でも、話し合っていくうちに理解が深まっていきました。私は、虐待されそうになった時、NOと言えるようになってほしいということを、想いを込めて伝えました。「それは権利侵害だからやめて」と言えることは、子どもが自らの権利を行使するということ。それができるようになるということは、子どもがエンパワメントされるということです。

子どもが権利を主張しだすと、混乱が起こるのでは?

保護者向けの「子どもの権利セミナー」にて

準備期間中、スタッフからこんな声が挙がりました。

「子どもたちだけが権利を学び、それを主張するようになれば、子どもの権利を理解していない保護者との間で対立が起こったり、混乱が起きるんじゃないか。」

確かにその可能性はありました。そこで、保護者向けの子どもの権利セミナーも併せて実施することにしました。保護者向けのセミナーでは、子どもの権利とは何かを伝えると同時に、2002年に制定された「子どもの保護のための法律」についても伝えました。大人に権利の重要性を理解してもらおうとするときは、「権利保護を定めた法律があるから、法を守ろう」という切り口で話すのが効果的だったからです。


さて、サマークラスは子どもたちと保護者にどんな変化をもたらしたのでしょうか?
後編では、セミナーを通して生まれていった保護者のポジティブな変化や、補習授業を手伝ってくれた地域の若者たちの意識の変化についてお伝えします。

後編はこちらから

目標達成まであと27人!

今回の記事でとりあげた子ども教育プログラム。今年は290人の子どもたちに学ぶチャンスを届けたいと考えています!

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