運動としてのフェアトレード事業~連載『フェアトレードの裏側』④

連載『フェアトレードの裏側』
① フェアトレード事業にかんする、小さなケンカ
② 「目がない」
③ クオリティ・コントロール
④ 運動としてのフェアトレード事業 ←今回

フェアトレード事業部 竹内彩帆

ビジネスの可能性

学生時代、カンボジアにある児童養護施設に半年滞在してボランティアをしました。その時に目の当たりにしたのが、「大口ドナーからの寄付ストップの恐怖」でした。欧米系のある大口ドナーとその友人が施設運営のための金銭的なサポートの中心になっていたため、施設の運営方針等への発言権が大きく、大口ドナーの意向を汲まざるを得ないとのことでした。結局、私が滞在した頃から何年か経って、20年以上にわたって多くの子どもたちを支えてきたその施設は解散し、ほどんどの子どもたちは親元・親戚の元へ返されることになりました。

この経験が大きな打撃となり、「寄付は危ない。ビジネスによって自家発電できないと事業を継続させることができない」「そのために、現地に雇用を生み出す必要がある」という考えが、私の根っこになりました。

「ソーシャルビジネス」というものがあります。これは、ビジネスという形をとることで継続的に収益を上げ持続的に社会問題を解決していこう、という事業形態のものです。いろいろあってカンボジアで雇用を作るためのビジネスを起こすには至りませんでしたが、アクセスのフェアトレード事業に出会い、「ソーシャルビジネスに自分もやっと関われる」と思えたことを、今でも覚えています。

ところが、いざやってみるとこれがとても難しい。ビジネスというものは、収支が赤字続きでは成り立たないものであり、場合によっては事業の継続が困難と判断されることもあります。アクセスの場合はフェアトレード事業だけを実施しているわけではないので、フェアトレードだけ立ち行かない、ということにはなっていませんが、それなりのコストをかけて動かしている事業で収支が赤字続きであるのは、事業運営の観点で見れば痛いわけです。

「ビジネスとして持続可能でなければ意味がない」とまではいかなくても、ビジネス視点での国際協力の可能性の大きさが(というよりも、寄付に頼る形の国際協力の危険さが)根底にあった私からすると、事業単体で見たら赤字続きのこのフェアトレードプログラムは利益が上がっていないのだからやめるべきだ、という発想になるのは、今思えばとても自然なように感じます。

ところが「すぐにやめるべき」という私の考えに対して、森脇さんも野田さんもはっきり「NO」と言いました。2人の意見に共通するのは、「アクセス全体の中での、フェアトレード事業の位置づけ」という視点でした。

運動としてのフェアトレード

私の問いかけから一年半くらい経った今、見えてきたことは、「アクセスのフェアトレード事業は、『ソーシャルビジネス』で捉えるものではない、のではないか」ということでした。では何か、というと、それは「運動」なのではないかと。

「市民運動」という言葉があります。一人ひとりの市民が民主主義を前提として、共通の問題意識に向けて連帯しアクションを起こすことを指すようです。環境問題や政治の問題への抗議活動やデモ、署名活動、ビラ配りなどが想起されますが、問題意識を共有し、一市民一人間として小さな力を集めて団結し大きなパワーに変えて課題解決に向かおうとするNGO活動もまた、市民運動の一形態と言えます。

アクセスの活動、またアクセスのフェアトレード事業を市民運動だととらえると、フィリピンの現状やアクセスの活動を知ることをスタートとし、解決していきたい問題意識や目指していきたい社会・世界・未来を共有し、その実現に向けて、一緒に、各々の小さな一歩を踏み出していくということが目標であり、「収支を黒にする」というのは市民運動としてのフェアトレード事業の過程の一つである、と見ることができます。そして「売上を上げる」ということは、「多くの人に商品を手に取ってもらうこと」=「多くの人に参加を促すこと」につながります。つまり、利益を上げることに取り組むことは、「生産者の自立」と、その先にある「貧困問題をなくしていくこと」「誰も犠牲にしない社会を実現していくこと」といった目標を達成するための手段の一つだと捉えることができるのです。

もちろん、事業運営にコストがかかる以上、事業の持続可能性を考えることから逃げることはできません。また第3回でふれたように、生産者の仕事づくりができるかどうかは、アクセス日本から生産者に発注できるかどうかにかかっており、発注の可否は国内での販売能力に左右されます。

しかし、この事業を「運動」と捉えたときに、会員・サポーターの方や取引先、ボランティア、デザイナーの方々、そして購入者の方々にこの事業にどのような姿勢で関わってほしいか、どういうことに一緒に取り組んでいきたいのか、一緒にどういう生き方を選んでいこうか、ということについて、より目線を同じにして歩んでいけるのではないかと、私は感じています。 「このフェアトレード事業に多くの人に参加してもらって、なにを実現したいのか」「そのために、どのように多くの人を巻き込んでいくか」という視点を持ってこの事業に取り組んでいくことが大切になってくるように思います。

同じことが、生産者の組織化においても言えます。 アクセスのフェアトレード事業の生産者は、アクセスが「雇用している」のではなく、生産者協同組合を組織し、アクセス(アクセスフィリピンを介してアクセス日本)と取引するという形態をとっています。アクセスが雇用するという形にしていないのは、生産者自身が商品の生産や組合の運営を自主的に実施していくことが、貧しい状況から自立的に脱却していくことにつながると考えているからです。

アクセスのフェアトレード事業の主たる目的は、アクセスが設立当初から合言葉にしてきた「エンパワメント」の実現です。この「エンパワメント」のゴールは「自立」です。極端ですが、アクセスが活動しなくて済む状態なることが到達目標だとも思います。生産者が商品の生産から販売、協同組合の運営までを自立的に回せるようになれば、より生産者の意向や方針を反映させ事業を成り立たせていくことが可能になります。結果的に、生産者が自立的に生活していくことができます。言うは易く行うは難しではありますが、そのような方向を目指し続けるということが、この事業の継続の意義の一つのように思います。

このように考えると、アクセス日本で力を入れるべきことは、売り上げを上げて商品発注を継続する、つまり仕事を供給し続ける、ことではないのかもしれない、という風にも思います。

(第5回に続く)

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