コロナ禍で失速するフィリピン経済と、子どもたちの新学期

新型コロナウイルスが世界中に影響を及ぼす中、フィリピンでは医療体制が脆弱なため、かなり厳しい感染拡大防止策がとられてきました。本稿では、2020年10月のフィリピンの状況と、子どもたちの教育の現状についてお伝えします。

★最も厳しいロックダウン下にあった、2020年3~5月の状況について
https://access-jp.org/archives/column/underlockdown

★外出規制が少し緩んだ2020年5~7月の状況について
https://access-jp.org/archives/column/gcq-july

6月以降、規制は緩和されたものの…

厳しいロックダウンは5月末で終了し、6月からは全体的に規制が緩められたフィリピン。一時期は生活必需品の買い出しさえも制限されていましたが、10月に入って、15~65才の自由な外出が可能になりました。感染者数が急増した地域のみ、一時的に移動規制が強化される(仕事のための外出も不可になる)、という状況です。

10月中旬の新規感染者は一日2000人前後、通算の感染者数は37万人を超え、死者数も7000人ほどになっています。経済も失速していて、ある民間の調査会社によると、7月初旬のアンケート調査で失業率が45%、失業者数2730万人に達しているとのことです。失業率は昨年12月の17 %より28ポイントも増加しているそうです。

ペレーズ地区で感染者が74人に

アクセスの事業地の1つであるペレーズ地区では、9月以降急速に感染が拡大し、人口12,000人の町でこれまでの感染者数は74名、亡くなっている方も2人います。京都市では、人口145万人に対して感染者が1,411人と、感染者の割合は0.1%ほどであるのに対し、ペレーズ地区の感染者の割合は0.6%。京都市の6倍にあたり、感染者数の多さが気にかかります。

私たちが支援している奨学生の保護者も2名が陽性となり隣町の病院に入院し、あと2名もペレーズ内の隔離施設に収容されました。彼らの家族も外出を禁じられ、収入手段が途絶えたため、アクセスからこの4家族に1000ペソ分(約2000円)ずつの食料支援を行いました。

アクセス・フィリピン 事務局長 リサさん

「マニラでもペレーズ地区でも、日々、新型コロナの感染者数が増加しており、地区の住民もアクセスのスタッフも、自分もウイルスに感染するのではないかと、困惑や不安に包まれています。

何よりも人々を苦しめているのは、感染者増加によって再び外出規制が厳しくなり、働けなくなるのではないか、という不安です。どうやって子どもたちを食べさせていけばいいのか、そのことが人々の最大の心配事です。

感染者が出た集落では、感染経路調査を厳密に行うため、外出規制が強化されます。該当エリアでは、日雇いの仕事や行商などをして生計を立ててきた人々が働けなくなり、その日の食事にも困る人が出てしまいます。ペレーズ地区スタッフは、日頃から支援している奨学生202世帯のうち、外出規制により働けなくなった世帯を特定。日本の方々からいただいたご寄付で食費を支援することに決めました。(週に200ペソ×2回)」

子どもたちの暮らしと教育は課題が山積み

子どもたちについては、全国一律で、「15才未満は外出禁止」の状態が現在も続いています。フィリピンでは通常6月初旬に新学年が開始するのですが、今年は一旦8月24日開始に延期され、その後もう一度10月5日に延期になりました。

フィリピン政府は新学期スタートにあたり、「オンライン」と「プリント学習」の2つの選択肢を提示し、各自治体がどちらで授業を行うかを決めることとしました。

農漁村の場合

ほとんどの農漁村の学校では、インターネットの接続環境が整っていないため、プリント学習で授業を行うことになりました。

ペレーズ地区では、各学校がどちらを選択するのかという決定および周知が行政から十分に行われなかったため、「うちの子はどちらで授業を受けることになるのか?オンライン授業を受けるための環境が整っていないけど大丈夫だろうか」といった不安や心配の声が直前まで多く聞かれたそうです。

結局、ペレーズの小学校については、保護者が定期的に担任の先生の自宅に行って子どもが取り組むプリントを受け取ったり、提出したりする形で新学期がスタートしました。フィリピン教育省が制作した教育番組がテレビやラジオで放送されることにもなっており、生徒はオンライン授業またはプリント学習に取り組みながら、担任から指定されたテレビ・ラジオ番組を視聴します。

アクセスから支給した文房具を受け取って喜ぶ奨学生(左)と、学校から配布されたプリントに取り組む奨学生(右)

都市部の場合

オンライン会議で、マニラ市トンド地区の現状を聞かせてくれた現地スタッフのジェイミー。

マニラ市など、一部の財政規模の大きい自治体は子どもたちにタブレット端末を配布するなどして、オンライン授業を行うと決めました。しかし、アクセスが活動するマニラ市トンド地区(都市スラム)の子どもたちの多くは、タブレットが配布されないまま新学期当日を迎えることになりました。

アクセスが支援する奨学生33人のうち、10月5日の新学期までにタブレットを受け取れたのは5人だけ。その5人も、オンライン授業を受講するために必要なアカウントやパスワードが間違っていて、初日は受講できませんでした。オンライン受講のためにマニラ全域でのインターネット接続量が増え、インターネット通信の速度が遅くなるといった影響も出ました。

タブレットを受け取れなかった子どもたちについては、親せきや近所の人に機器を借りたり、保護者同伴で近所のパソコンショップを利用した人もいました。中には、「オンライン受講できないから、今年はもう就学できないんだ・・・」と落胆する子も。現地スタッフのジェイミーは、「大丈夫!配られたプリントにしっかり取り組めば落第にはならないよ。諦めないで勉強がんばろうね。」と奨学生を励ましたと言います。

保護者にかかる、経済的・心理的な負担

こうした自宅学習は保護者の監督のもと行うことになっているのですが、ハイスクールどころか小学校も卒業していない保護者も少なくないため、子どもに教えるのも容易ではありません。感染への不安や収入の減少による生計悪化でしんどい日々が続くこのタイミングで在宅学習が始まったことで、保護者にかかる心理的な負担はかなり重いものとなっています。

保護者にとってのもう1つの悩みの種は、学校から請求されるプリントの印刷費が経済的な負担になっているということです。教育省が十分な印刷費予算を確保できないため、各学校から家庭に印刷費が請求されることになったのです。そこでアクセスでは、制服・靴・鞄などを支給するために用意していた資金を、プリント印刷費として各家庭に支給することにしました。

このほかにも、配布されているプリントにたくさんの致命的なミスが見つかっていたり、地域のカラオケ店の音がうるさく子どもたちが勉強に集中できないといった声も全国で上がっています。課題の量が多すぎて期限までに終わらせることができない、と精神的に追い詰めらる子どもも出ている、との報道もありました。全国的な在宅学習の試みは、課題だらけのスタートとなりました。

こうした混乱した教育の現状は、子どもたちにどういった影響を及ぼしていくのでしょうか?
ぱっと思いつくだけでも、以下のようなストレスが発生しているだろうことが想像されます。

  • 勉強がわからないことからくるストレス(子ども)
  • 教えることに関するストレス(保護者)
  • 慣れない機器やプリントを扱うことへのストレス(子ども・保護者)

勉強が苦手だったり、発達に偏りがある子どもがいる家庭ほど、こうしたストレスが高まりやすいと言えるでしょう。少し規制は緩んだとはいえ、まだ以前ほど自由に友達や親せきと会っておしゃべりできるような環境ではありません。保護者がストレスを解消する機会が不足している現状の中で、精神的なしんどさが子どもへの虐待や夫婦間の暴力といった形で現れるリスクが指摘されています。

アクセスでは、地域の実情に合った形で、現地スタッフが子どもたちや保護者と会って話す機会を設けています。ペレーズ地区では各家庭を訪問する形で、トンド地区では7名ほどが集まっての小さな会議を開けるようになりました。こうした、「家族以外の人と会って話す」機会が、ほんの少しでも保護者の皆さんのストレス発散につながればと願っています。

オンライン会議ツールを使って、離れた場所にいるアクセス職員の話を聞く、奨学生の保護者たち。外出時は、全員がマスクとフェイスシールドを着用しなければならない。

(了)

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この記事を書いた人

Sayo N

第二の故郷であるフィリピンで、「子どもに教育、女性に仕事を」提供することが仕事。誰もが自分のスタート地点から、自分のペースで成長できるような場づくりを大切にしています。アクセスの事務局長です。趣味はライブに行くこと。